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少し語り合う女騎士と盗賊

 暇潰しがてら少し昔話をしていいか聞くと、シーリアス王女は小さく首を縦に振る。

 だから少しだけ語らせてもらった、俺とメシアが冒険者となった理由を。

 俺達の住む村に冒険者がやってきた事、彼らのカッコよさに心を奪われた事、そして職業の差から俺はメシアと距離を置いた事を。


「貴様とメシア殿は幼馴染だったのか……そしてメシア殿を案じて、貴様は自ら離れようとした」


「そんな大層な理由じゃないですよ。メシアは強いのに、幼馴染のアイツは弱いなんて笑われたくなかっただけです。一緒に冒険者を目指しといて、俺は逃げたんですよ」


「……自分の弱さを認め、強者から離れる。それは中々出来る事じゃないのだ。それに貴様は、冒険者を辞めずに自らを鍛えている。アムルン殿の酒場で、強者に媚を売る軟弱者と言ってしまったが……訂正したい。貴様は心が強き者だとな……申し訳ない」


「謝らないでください、それに心も強くありません。本当に心が強いなら……冒険者を諦めて、村で新しい夢を追いかけた筈ですから……まあ、この辺りは本題じゃないんです、続きを話しましょう」


 シーリアス王女の視線が優しくなった気がした。

 俺は再び、昔話を語りだす。

 メシアと離れ、『盗賊』のスキルを必死に磨いた事、アムルンさんの推薦でソルマのパーティーに加入させてもらった事、そして……言いがかりでパーティーから追い出され、再びメシアと再会した事を。


「予想していた事だが、やはりパーティーを組もうと提案したのはメシア殿だったのか」


「ええ、俺は断ろうとしたんですが……口説かれてしまいました」


「口説き落としてまでパーティーにした貴様を(ないがし)ろにした自分は……メシア殿に怒られて当然だったな……と、良い感じの串になったな。そちらはどうだ?」


「こっちも出来ました。早速、魚を焼いてしまいましょう」


 短剣で削っていた串が完成し、魚を突き刺して焚き火の近くに立てておく。

 揺らめく焚き火の炎を少しの間、2人で黙って眺めていた。

 シーリアス王女が視線を戻したので、俺は続きを話しだす。

 【盗む】の熟練度が最大になった事、魔物の能力値(ステータス)やスキルが盗めるようになった事、そして……やっとメシアに並び立てるんじゃないかと思えてきた事。

 メシアに言えないような俺の気持ちも、シーリアス王女は静かに聞いてくれた。


「そうか、【盗む】にそんな可能性が……しかし、【盗む】は『盗賊』が真っ先に切り捨てるスキルと聞く。貴様以外の『盗賊』が辿り着くとは思えないな」


「【盗む】の成功率は最初、とんでもなく低いですからね。しかも盗むの熟練度が最大になったところで、最初の能力値(ステータス)やスキルが盗めなければ強くなれないですし」


「気になる事がある、貴様は何故『盗賊』のスキルの腕を磨き続けたのだ? 貴様の努力を否定したいわけじゃなく、自分が純粋に興味を持っただけなのだが……」


「俺が『盗賊』のスキルを鍛えてた理由ですか? まあありますけど、ちょっと恥ずかしくて」


「パトリオット家の名に懸けて、誰にも言わないと約束しよう。必要ならば誓約書でも――」


「分かりました、分かりました! そこまでしてくださるなら、話しますよ! 絶対に他の人には内緒ですからね?」


「ああ、勿論だ」


 シーリアス王女の期待の眼差しを受けて、俺は頬を掻きながら視線を逸らす。

 勢いに押されて言うと宣言してしまったから、もう理由を話すしかない。


「『盗賊』のスキルだって鍛えれば、誰かの役に立てるって……思ったんです。それでいつか、メシアを助けられたらって……だから、スキルを鍛えられました」


 理由を話すのが恥ずかしくなってきて、段々と声が小さくなってしまった。

 肝心のシーリアス王女の反応が無い。

 恐る恐る視線を戻すと、シーリアス王女は目を丸くして何かに驚いている。


「それは、なんと……」


「やっぱ、変ですかね……?」


「いや違う! なんと素晴らしい!」


 シーリアス王女は俺の手を包み込むように両手で取り、顔をかなり近付けてきた。

 メシアがこうやって顔を近付けてくる時はあるけど、シーリアス王女だとなんというか……緊張してしまう。

 キラキラと瞳が輝いて、俺は少しだけ見入ってしまった。


「貴様は! いや違う、君は……ローブ殿は素晴らしい! 冒険者でありながら、その志は騎士の物! 君の事を冒険者とだけで嫌悪せず、もっと早く理解していれば……ああっ、自分はなんと愚かだったんだっ!」


「あの、近いです……シーリアス王女」


 急に興奮しだしたシーリアス王女に、俺は少しだけ引いてしまう。

 距離感の事を言うと、シーリアス王女はやっと気付いてくれた。

 シーリアス王女が元の位置に戻り、俺は視線を少しだけ逸らす。

 さっきまであんなに近かったから、シーリアス王女の事を直視できない。


「ああ、すまない。少し興奮してしまったよ……だがローブ殿、その理由は恥じる事では無い。自己中心的な冒険者が多い中、他人の為に何かを出来る冒険者は素晴らしいのだ。メシア殿も、ローブ殿も……!」


「そ、そうですか……?」


「そうだとも! 決めたぞ、ローブ殿。男の冒険者はまだ少し苦手だが……ローブ殿は特別だ。自分のような騎士で良ければ、いつでも力になるぞ!」


 そう言ってシーリアス王女は、グッと親指を立ててくれた。

 俺の力になってくれる……だったら早速、頼みたい事があるんだ。


「でしたら、教えてほしい事があるんです!」


「むっ、早速だな! 良いぞ、何を教えれば良い?」


「俺に剣術を教えてください!」


「……剣術、だと?」

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