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魔術師を宥めつつ、女騎士の話を聞く盗賊

 普段の無表情のように見えるが、メシアは何故か怒っていた。

 取り付く島もないメシアの態度に、女騎士は明らかに動揺して冷や汗をかいている。

 確かに面倒事の気配を感じていたけど、流石にこれは可哀想だ。

 ここは1つ、俺が助け舟を出すとしよう。


「なあメシア、話くらいは聞いてやったらどうだ? この人も折角お前を頼りに来たんだしさ」


「むっ、そ、そうだ! 良いこと言うではないか、ロ、ローブ殿!」


 どうやら女騎士も俺の事に気付いているらしい。

 名前を呼ぶのに、一瞬だけ躊躇(ためら)いがあった。

 そして肝心のメシアは……更に怒っているように見える。


「ごめんローブ、でも嫌……貴方、さっきからローブを睨んでる……凄く不愉快……どうしても、ワタシに依頼したいなら……ローブに謝って」


「ぐっ、それは……!」


「出来ないなら、もう良い……ローブ、行こ……今日はもう、依頼を受ける気分じゃない……」


「メシア……」


 そう言って椅子を降り、俺の袖を引っ張るメシア。

 俺も椅子を降り出口まで行こうとして、メシアが足を止める。

 背後で女騎士が、深く頭を下げていたからだった。


「……ローブ殿、申し訳ない。自分の無礼を許してほしい」


 とても悔しそうな声で、女騎士は謝罪の言葉を絞り出した。

 メシアに言われてこんな直ぐに頭を下げるって事は、どうしても依頼をしたいんだろう。

 俺が話を聞こうと目で訴えると、メシアは小さく頷いて座っていた椅子に戻った。


「ローブちゃんメシアちゃん、お待たせぇ~! ってアラ? そちらの騎士様はもしかして……」


「ごめん、アムルンさん……ちょっと、この人のお話を聞く……」


「良いのよ、気にしないで頂戴! 騎士様が来てるって事は、大切なお話よねぇ? 2階の個室に案内するわよぉ。ここじゃ騒がしいし、馬鹿どもが聞き耳立てちゃうだろうからね」


「アムルン殿、心遣い感謝する……」


 アムルンさんの計らいで、俺達は2階の個室で話す事になった。

 当然だが俺とメシアが並んで座り、メシアの正面に女騎士が座る。

 メシアは話を聞く事は納得してくれたけど、多少の苛立ちが残っているように見えた。

 こんな状態のメシア、初めて見る……何を言い出すか分からないし、なるべく俺が話を進めよう。


「えっと、メシアはこの方が誰か分かるか?」


「興味な――」


「あー、はいはい! 知らないのな、うん! しょうがない、そう言う事もあるさ、うんうん!」


 何処から説明すれば良いのかと一応メシアに確認してみたが、予想の斜め上を行く回答が出そうになったので慌てて(さえぎ)った。

 チラリと女騎士の方を見ると、プルプルと震えながら何かを堪えている。

 こんな事を頼むの、凄く申し訳ないけど……まあ聞くしかない。


「そう言う事なんで、申し訳ないですが自己紹介してもらって良いですか?」


「……まあ、仕方あるまい」


 そう言って女騎士は咳払いを1つし、真面目な表情になる。

 俺は名前を知っているが、やはり本人から言ってもらった方がメシアへの印象も良い筈だ。


「自分はこの王国の第三王女、シーリアス・パトリオットだ。恰好から見て分かる通り、自分は王女であり騎士でもある。メシア殿、以後お見知りおきを」


 そう言ってシーリアス王女は、メシアに右手を差し出す。

 メシアは渋々といった感じで握手に応じ、俺は心の中で安堵した。


「一応、ワタシも……メシア、『魔術師』……もうソロじゃなくて、パーティーだから……」


 メシアのパーティーという言葉を聞き、シーリアス王女が俺を見る。

 睨もうとしたんだろうがメシアが先にピクリと反応し、シーリアス王女は何とも言えない表情になっていた。


「……ん? ローブ、どうかしたの? そう言えばローブ、シーリアス……王女を見てから、ちょっと変」


 俺とシーリアス王女の何とも言えない気まずい空気に、とうとうメシアが疑問を持つ。

 別に隠すつもりは無かったけど、メシアになんて説明したものか……


「実は俺とシーリアス王女は、会った事があるんだよ」


「まあ、そうなのだ……」


「へえ……そうなんだ……だからと言って、ローブを睨んで良い理由にはならない……」


「メシア、もうその事は許してあげてくれ。シーリアス王女はその……とある理由で、冒険者の男が嫌いなんだよ」


 俺は横目でシーリアス王女の様子を見ながら、メシアに事情を説明する。

 理由を知っているから、俺はシーリアス王女が睨んできても別に気にしない。

 それどころか、俺はむしろ同情の気持ちすらある。


「……その理由、聞かせて? じゃないとワタシ、納得できない……」


「メシア……」


 困ったな、俺が勝手に話すのはあり得ないし……

 かと言ってシーリアス王女が話すのは、どうなんだろうか?

 俺がゆっくりと視線を移すと、シーリアス王女は大きく息を吐いた。


「それでメシア殿が納得していただけるのであれば、話すとしよう。是非とも、下らない理由と笑ってやってくれ」


「……笑わない、それは約束する」


 メシアのハッキリとした宣言に、シーリアス王女は目を丸くする。

 真剣な表情のメシアに、シーリアス王女の表情が少しだけ和らいだ。

 理由を知っている俺は、少しだけ緊張してしまう。

 何故なら俺は、その理由にほんの少しだけ関わっていたのだから。


「自分には冒険者の許嫁が居るのだ。Sランクパーティーのリーダー、ソルマと言う名の男がな」

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