強敵と対峙する魔術師と盗賊
俺とメシアが横に並び、その後ろでハーティが後ろに立ち……揃って見上げる。
広い円形の草原、最奥に世界樹がそびえ立っていた。
その世界樹の根本に、ベイマー森林のダンジョンマスターは居る。
「あれが、今回のダンジョンマスター……大きな、牛……?」
「見た目だけなら明らかに、力でゴリ押ししてきそうだけど……魔物や罠の配置のいやらしさからして、知能も高い。世界樹の魔力を吸収して、魔法とか使ってきてもおかしくないぞ……」
「力なら、ローブが対抗する……魔法なら、ワタシの方が上……知能なら……」
メシアの言葉を聞いて、背後でハーティが雄叫びを上げる。
知能の高さなら、ハーティが勝つって事か。
1人1人が長所で対抗し、短所を補い合う。
パーティで戦うってのは、そう言う事なんだ。
「今回はゴーレムファクトリーの時と違って、絶対に倒さなきゃいけないダンジョンマスターだ。メシア、作戦か何かは決まってるか?」
「うーん……」
メシアは腕を組んで少しだけ考え込み……拳で掌をポンと叩く。
どうやら何か思いついたらしい。
「いつも通り……ローブとハーティが抑えて、ワタシがドッカーン……!」
「それくらいが、メシアらしいか。ああ、いつも通りそうしよう」
メシアの作戦とは言えない雑な意見を聞いて、ニヤリと笑いながらダンジョンマスターの待ち受ける草原に足を踏み入れる。
自分の領域に侵入者が現れた事で、ベイマー森林のダンジョンマスターはゆっくりと体を起こした。
ドラゴンであるハーティを遥かに超える巨体、竜と見違えてしまいそうな硬い鱗に覆われた体。
羽根が無く四足歩行で、鋭く尖った2本の角だから牛だと判断したが……実はアイツ、竜の一種なのかもしれない。
「ローブ、お願い……!」
「ああ、抑え込んでくる、ハーティ、行くぞっ!」
ダンジョンマスターは地面を揺るがすような咆哮を上げ、俺達に向かって突進してくる。
1歩1歩が地面を揺らすダンジョンマスターの猛烈な突進をに対し、俺は両手を前に突き出した。
この強烈な突進は能力値だけで受け止めるのは流石に不可能だろう。
だから今回は使い慣れてきた【盗む】の派生技、威力を盗むの出番だ。
「威力を盗むッ!」
ダンジョンマスターが突き出してきた角を両手で掴み、派生技を発動させた。
突進こそ受け止められたものの、ダンジョンマスターが吹っ飛ぶ事は無い。
まさか、威力を盗むの反撃を自分の力だけで耐えたのか!?
だがこうやって触れた状況で止まったのなら、能力値を盗むを……
「うおっ!?」
ダンジョンマスターが力強く角を振り上げ、俺は踏ん張る暇も無く空中に体を持ち上げられてしまった。
腕も無理矢理引き剥がされ、俺は空中へ無防備に投げ出される。
突進を受け止めたから、触れられるのはマズイと理解したのか!?
ダンジョンマスターが空中の俺目掛けて、その巨大な角を薙ぎ払う。
まずは俺を吹っ飛ばそうって判断か……そうはさせない!
「もう一回! 威力を盗むッ!」
迫ってくる角に何とか手を合わせ、再び威力を盗むを発動。
首の筋力だけで耐える事は出来ず、ダンジョンマスターは頭を殴りつけられたかのように体制を崩す。
だが空中では反動に耐え切れず、俺の体も逆側に吹き飛んでしまった。
「……ッ!? ハーティか? 助かったよ……!」
吹き飛んでいく俺にハーティが飛んできて、服の襟をくわえてダンジョンマスターの間から退場するのを阻止してくれる。
空中で威力を盗むは危険だな……まさかこんな弱点があるなんて。
体を起こしたダンジョンマスターに襲い掛かる、青い炎で作られた巨大な鳥。
美しい青の炎、メシアもそれだけ本気なんだ。
「やっぱり、こんなんじゃ駄目だね……!」
しかしダンジョンマスターは角を地面に深く突き刺し、地面を一気にめくり上げる。
メシアの青い炎の鳥が土の壁を溶かし尽くすが、かなりの威力が削がれてしまった。
ダンジョンマスターが角を突き刺せば、青い炎の鳥は霧散してしまう。
「メシア、危ないっ! 敵意を盗むッ、こっちだデカブツッ!」
今の魔法で敵意を買ったのか、ダンジョンマスターがメシアをギロリと睨んだ。
俺は急いでダンジョンマスターに手を伸ばし、その敵意を自分の元に手繰り寄せる。
ハーティにくわえられて空を飛ぶ俺を、ダンジョンマスターは一瞥し……メシアに視線を戻した。
敵意を盗んでも、こっちに意識を集中させてこない!?
自分の中で冷静に、優先する敵を判断し直せるのか……!
「メシア、転移だっ!」
「おっけー……!」
ダンジョンマスターが足を大きく振り上げた瞬間には、ハーティの背中にメシアは既に転移している。
足を振り下ろし、地面を大きく揺らしながらダンジョンマスターは上空に居る俺達を睨んだ。
ゴーレムファクトリーのダンジョンマスターよりも、かなり強い……だけど。
「なあメシア、ハーティ。別に負ける気、しないよな?」
「うん、全然しないよ……!」
ハーティは俺をくわえてるせいで鳴けなかったが、体がガクンと揺れたので頷いたんだろう。
確かにベイマー森林のダンジョンマスターは強い、だが俺の胸には楽しいって気持ちしか湧いてこなかった。




