第86話:射撃初心者兄さん
4層への階段を下り、残り数段という所で止まる。フィールドを窺うと、骸骨の剣士は前回と同じく、階段を下りた少し先。こちらに背を向けて座っていた。もう少し近付くと、立ち上がってこちらに向かってくるんだろう。
「……」
階段の上に座り、片膝を立ててそこに腕を置いて銃を固定する。早速、基本の型から逸脱してるけどな。まあさっき撃った時、反動らしい反動もなかったから、座ったままでも腰をやられたりはしないだろう。
「階段から撃って届くでしょうか?」
「なんか、階段ハメみたいなテクニックはあるみたいだよ」
相変わらず掲示板情報だけどね。まあでも意外にも今のところ、ネットソースでもガセ掴んだことないんだよな。
「まあ、ダメでも俺の腹が減るだけのことで、ほぼノーリスクだし」
試して損もない。菜那ちゃんも頷いた。
銃身の角度を調整する。スコープみたいな上等な物はついてないから、目視頼りだ。
「どう?」
横から覗き込む菜那ちゃんに訊ねる。
「もう少し下……ですかね」
膝をチョットだけ下げる。
「あ。多分、良い感じ」
と言うので固定。すうと息を吸って吐いて……
――パーン!!
発砲。少しだけ腕に反動があるけど、やはり大したことはない。背や腰にまでは衝撃は来ない。
そして前方。骸骨先輩が四散していた。あばら骨の辺りか、その少し下に当たった感じだ。
「あれ? 頭に行くと思ったんですが」
なにげに菜那ちゃんが残酷。まあ骨相手だしな。
ただやはり、素人のナビとスナイパー。狙った所からズレたというのは事実だ。菜那ちゃんの見立てが間違っていたか、俺の方が無意識に膝が下がってたか。
「まあ……何にせよ、体に当たったらワンキルっぽいね」
取り敢えずは成果の方に目を向けとこう。
「あ。ドロップも出てきましたよ」
というか、ヤツが落としたボロ剣がそのままアイテムとして残ったって感じだけど。
「拾いに行ったら囲まれる、とかはないよね?」
「どうでしょう? あ、いえ。来ましたね」
発砲音を聞きつけてか、仲間の四散した様を認めてか、他のスカルソルジャーも寄ってきたみたいだ。残り6体だが、そのうちの3体が向かってきていた。
そして彼らは階段の傍まで来たが……周囲をウロウロするだけで、上がっては来ない。俺たちを認識できてない様子。マジで階段は安地なんだな。
「ファイアボール」
菜那ちゃんの魔法が飛んでいく。火球に焼かれた骨だが……効きが悪い。確かネット情報だと魔法耐性が強いとか書いてた気もする。
「既に火葬された後だからでしょうか?」
菜那ちゃん、ダークユーモアのつもりはないんだろうけど。思わず苦笑してしまった。
「……」
先程と同じく、膝射の構えを取る。今度は妹のナビ無しでどれだけやれるか試すつもりで、そのまま撃った。
乾いた発砲音の後、俺が狙っていた個体の後ろのヤツの頭が弾けた。
「すごいです! 兄さん!」
「あ、いや、その」
大外れだったんだけど……言い出せない雰囲気。たまたまだよ、とお茶を濁して。
もう一度、構える。今度は再び菜那ちゃんのサポートを促す。どちらも要練習だからね。
「さっきはあれくらいで、下の方だったから……けど胴に当たったのは結果として良かったから」
ブツブツと唱えながら、首を忙しなく動かして、菜那ちゃんは銃口と骸骨とを見比べている。
「気持ち、上で」
指示通りに。
「あと1センチ」
手先だけで微調整。オッケーが出たので、引き金を引いた。
――パーン!!
だが、残念ながら銃弾は地面に穴を開けただけに終わる。骸骨剣士が動いてしまったのだ。ああ、と菜那ちゃんが不満げな声を出す。
「しかし、よく考えたら……さっきの壁といい、今の地面といい、普通に穴が開くよね」
非破壊オブジェクトでありながら、空気を読む説。あれは本当に正鵠なんかもね。
「戦闘の選択肢が広がるかも知れませんね」
もっと脆いオブジェクトがある階層なら、それを撃って、敵の頭上に落としたり出来るかも。まあその場合、今以上に正確な射撃技術が要求されるが。
もう一度、銃を構え、
――パーン!!
今度は狙った個体の脇腹辺りに直撃(胸を狙ったんだが)、四散した。やっぱ衝撃には脆いな。と、ここでレベルアップ。
「新田拓実のレベルが11→12になりました。腕力強化のスキルがレベル2→3になりました。ダンジョン本舗呼び出しのスキルを獲得しました」
ダ、ダンジョン本舗? 呼び出し?
「兄さん、大変です。レベルが9に上がったんですが……なんかダンジョン本舗とかいう謎の店を呼び出すスキルを覚えたみたいで」
「菜那ちゃんもか!?」
兄妹どちらも、その謎の店とリンクが出来てしまったようだ。多分、大穴ダンジョンの3階層で手に入れた群馬ドル。あれがフラグだろう。
「……取り敢えず、あと1体倒して、剣だけ回収、その後は一旦戻ろう。家で状況確認、指針を決め直すんだ」
「そうですね。店に行けるなら、何か有用なアイテムも手に入るかも」
もちろん、ここでレベルを上げるのも大事だけど、俺たちの目標はあくまでも大穴の方だからね。そっちの攻略の糸口になる可能性が高い方を優先的に当たっていくのがベターだろう。
「じゃあ、あと1体。一発で決めて、景気よく作戦会議といこう」
そう息巻いていたが……当てるのに3発かかった。




