第67話:発芽兄さん
家に戻ると、そのまま農園へ。シャベルを使って2人で穴を掘り、そこへクルミの苗木を植えた。ワンダリング・ガンがドロップした「ダンジョン鋼の銃身」と炎の魔石も、その根っこの傍に置いて上から土をかけていく。最後に、シャベルの背で土をポンポンと叩いて固めた。
「早く育つと良いですね」
「うん。銃が手に入れば、戦闘が格段に楽になるからね」
菜那ちゃんは炎魔法があるけど、俺は今現在、近接戦闘以外の選択肢がないからな。
と。
「兄さん、あれ」
菜那ちゃんが何かに気付いたようで、一点を指さす。今日もおじもちを大量に落としている栃の木の傍ら、一角の土が淡く輝いていて……
「特上薬草か!」
「発芽してるのかも知れません」
話しながら近寄っていく。傍まで来ると、確かにその土は輝いていた。黄色、いや、ほのかな金か。
「小さな芽が出てますね」
淡く光る土の上に、一際強く発光する小さな芽。中々キレイな光景だ。俺はスマホを取り出し、パシャリと1枚。菜那ちゃんもスマホを起動して、
「兄さん、笑顔でお願いします」
何故か俺も入っている角度で撮ろうとする。
「スーパーに売ってる、生産者が見える野菜じゃないんだからさ」
新田さんのダンジョン農園で採れましたってか。
思わず苦笑してしまうと、そのまま撮られてしまった。ただ妹がそれで「ふふ」と楽しそうに笑うから、まあ良いかという気持ちにさせられる。
「まあ、特上薬草は明日以降かな」
上手いこと、チビ菜那ちゃんと来た時に収穫できたら良いな。
「シイタケの方は……」
「そうだね、それは明日、4歳になった菜那ちゃんとやってみるよ」
きっと喜ぶだろうな。想像して、思わず頬が緩む。
「…………兄さんは今の私より……」
「え?」
なにか菜那ちゃんが呟いたようだけど、よく聞こえなかった。
「いえ。明日また、4歳の私をよろしくお願いします」
「ん? う、うん」
言われなくても、もちろんお世話するけど……
「あ、そうでした!」
誤魔化すように、少し大きな声を出した菜那ちゃん。
「私もレベルが上がってるかも知れませんね」
確かに。俺がさっき稼いだ経験値が彼女にも入ってるハズだから。
菜那ちゃんは空中に視線をやる。ステータス画面を開いたんだろう。
「あ、やっぱり。レベル8になってます」
新規スキルは無し。エンジェルラックがレベル2→3へ。エンゲージは変わらずレベル3。炎魔法がレベル1→2。鑑定がレベル2、クロノスの祝福もレベル2で据え置きとのこと。
「エンジェルラックは既存の効果が増幅されているみたいですね。炎魔法は……同時に複数の火球を出せるようになったみたいです」
「おお、すごい」
完全にパーティーの火力は菜那ちゃん頼りだな。炎魔法なだけに。
というワケで現状確認も終わったところで。
「オワコンの4層か、大穴の3層だよな」
次に向かうべき場所の話だ。
「大穴の3層は……まだワンダリング・ガンが居るかも知れないんですよね」
「ああ、確か1敗してるんだよな」
鮮明に残ってる記憶は、菜那ちゃんが鬼の形相で魔法をぶっ放して、扉付近の個体を全滅させたところのみ。その前に、恐らく俺が致命傷を負ったんだろうことを考えると、慎重を期すべきなのだろうけど。
「まずは扉を開いて、フロア鑑定をするのがベターかな。それであの銃が何匹残ってるか調べられる」
今までの層を鑑みるに、そんなに通常の敵の数は多くないハズ。あとは強力なボスが居るだけで。
「ただそれにしても、出来たら盾は欲しいですよね」
確かに。けどなあ。ダンジョン鋼の盾はメッチャ高いらしいからな。2人分揃えたら、恐らく特上薬草の売却で得た臨時収入が吹き飛ぶだろう。
「……」
お金より菜那ちゃんの時間異常を元に戻す方が大事、なのは分かってるんだけど。でもそれを解決できても、今度はお金がないと、どのみち生活が成り立たないというジレンマ。
「少し考えたんですけど……」
「え?」
「おじもちで弾丸を防げませんかね?」
「おじもちで?」
「ええ。ファットボアーはかなり体重があったんですよね?」
「う、うん」
大の男が壁との間で圧死させられそうになったくらいだし。
「それだけの巨体が降ってきて、殻こそ割れはしましたが、中身は無事でキチンと体を絡め取っていたとなると」
「ああ、なるほど」
銃弾すら、こう、ブミョンと。あれだけ粘性もあるし、確かに貫通しない可能性も十分にある。
「それに……ワンダリング・ガン、ダンジョン鋼の盾で調べたんですけど、検索結果ゼロだったんですよね。やっぱりかなりレアなモンスターみたいで」
「つまり?」
「一応、ダンジョン鋼の盾なら防げるだろうという見込みで話してますけど、確証はありません」
ああ、なるほど。銃身の方がダンジョン鋼らしいから、それに対抗できる硬度は同じダンジョン鋼しかないよね、と思い込んでたけど。防げる保証はどこにもないのか。そうなると、硬度ではなく粘度で勝負ってのもアリか。
「要らないカバンとかに詰めて」
「いや、土嚢袋に4~5個詰め込むのが良いんじゃないか」
確か、家から一番近いスーパーにも置いてあったハズ。一旦出て、買いに行こう。
「じゃあ決まりですね。諸々の準備を整えて、今日は大穴の3層に行ってみましょうか」
ということで、今日の方針が決まった。




