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「おーう、大丈夫かー?」
まだ耳がキーンとしているが、その声は聞こえた。
低いが良く通る、中々いい声じゃないか。
まだ目は見えないが、攻撃してくるような素振りは無いし逃げなくても大丈夫だろう。
「目がチカチカするよー」
高度を下げながら近づき、適当に返事をする。
「はっはっ…悪かったな。まさか人間が空を飛んでいるとは思わなかった…驚かせちまったな。広間の魔物は今ので全て片付けた。処理が終わるまでのんびりしとけ」
気さくな感じだ。
俺を制止した時の剣呑さは感じられない。
感じられないが、近くに寄れば寄るほど化け物じみた強さがわかってしまう。
ただ、俺の聞いた感じでは、戦闘狂というかあまり人付き合いはしない世捨て人のようなイメージだったが、少し違うのかもしれない。
「その紋章は…確かミュラー家か。一人でここまで来れる様なガキ抱えてるのは流石だな」
俺のエプロンの胸元についている紋章を見て分かったらしい。
貴族の誘いは断っているようだが、全く興味が無いってわけじゃないのかもしれないな。
「ミュラー家のセラです。あなたは「閃光」さん?」
相手の人物像が掴めないし、無難な感じで行こう。
「まあ、そんな風に呼ばれているな…ジグハルトだ。目は大丈夫か?」
「ん。良くなってきました」
まだ多少チカチカするが何とか見えるようになってきた。
遠目からだと黒髪の男って事しかわからなかったが、「閃光」様のご尊顔を拝見させてもらおうじゃないか!
ちょっと楽しみになってきた。
背は結構大きい。
アレクほどじゃないが、ルバン位か?
大柄で厚手のジャケットを身に着けている。
鎧じゃないってあたりに自信を感じるね。
「…うん」
「…どうした?」
「いや…ひげ」
そして、顔は……。
ボサボサ髪のもっさり髭。
煤けてるね。
40半ばらしいが、これじゃよくわからん。
「ああ…10日間位か?ずっと潜っていたからな。水浴びはしたんだが…」
なるほど。
身だしなみは後回しになるのか。
しかし、10日もダンジョンで過ごすとか凄いな!
「10日もいたんですか?」
「今回は下層での採集だったからな。俺だけならともかく、サポート役でそこまで行ける奴はあまりいないから、ダンジョンの閉鎖中に一気に集めて潜るんだ」
「へー」
頷きつつ後ろに目をやると、リヤカーの様な台車が3台あるが、どれも荷物が満載だ。
遺物だけでなく、核を潰していない魔物の死体も乗っている。
確かにあんなのは一人で運ぶのは無理だが、浅瀬程度なら新人や14歳未満の見習いを連れていくこともあるそうだが。より強い魔物がいる下層には誰でも行けるわけでは無い。
それで閉鎖中にそこまで行ける冒険者をサポート役に雇うって寸法か。
閉鎖中は冒険者は休養に当ててると言っていたが、その位の無理を通せる力があるんだな。
このおっさんは。
「いっぱいですねー。凄いです!」
「あ?はっ…どうだかな」
何やら不満げな様子。
お世辞ってわけじゃないが、こういうのは聞き慣れてるのかな?
「ジグさん、終わったぜ」
他愛のない話を進めていると、処理を終えたのか冒険者達が戻ってきた。
サポート役とは言え、この人達も下層に滞在できる程度の力はあるんだな。
「おう。俺達は帰還するが、お前はどうする?ここから奥もこんな風に片づけて来たし、魔物はまだ少ないと思うが…」
ふむ…。
何かこのおっさんの化け物っぷりを見ちゃったし、…萎えた。
戦闘はほとんどできなかったが、肝心の【妖精の瞳】の性能は少しわかったし、今日はもう充分かな。
「それなら帰ります。ついて行っていいですか?」
「ああ。よし行くぞ」
時間はまだそれほど経っていないし、帰りも人だらけで戦闘は無さそうだが、もしかしたら魔法を見れるかもしれない。
一応あれも見たとは言えるが、何が何だかわからなかったしな…。
まぁ、あまり期待できないか?
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・19枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【】・【赤の盾】・2枚




