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「セラ、朝だよ。起きなさい」
エレナの声だ。
でももう少し寝たい…。
「ほら、アカメももう起きているよ?」
起きずにいると、体を揺すってくる。
ぅぅ…仕方ない。
「……おきた」
「はい。おはよう。顔を洗って寝癖を直して来なさい」
「……はーい」
胸元から体を伸ばしている潜り蛇のアカメと目が合った。
今日も元気そうで何より。
ここ数日エレナも【隠れ家】内で寝起きをしている。
アカメとは契約も済ませ、問題無いとは言えそれでも魔物は魔物。
念の為の監視も兼ねての事だ。
最近少し早起きできるようになったとはいえ、それよりさらに早く起こされるのが辛い…。
◇
アカメを拾いセリアーナの部屋で話をした日、帰って来たじーさんに相談に行った。
怒涛の展開というべきだろうか?
一気に進展し、そして大事になった。
まず、潜り蛇の契約・申請は滞りなく済んだ。
王都内に生きた魔物を持ち込むことは違法で、テイムされた魔物の事を従魔と呼ぶのだが、従魔も連れ歩く為には騎士団への申請がいる。
それをせずにいると、最悪の場合主は捕まり従魔は殺されるらしい。
その為すぐに騎士団本部へ連れていかれ、俺の髪の毛と血を使ったインクで、契約印を主と従魔両方に押す。
場所はどこでもいいそうだが、俺は左の二の腕にし、アカメは頭部だ。
前世でのハンコ注射を彷彿させるが、痛みも何もなかった。
これをすることで、互いの居場所が何となくわかるようになるらしい。
言うことを聞くとは言え、魔物である以上所在を把握できる状態にしておかなければいけないのだろう。
そして、契約の際にだが名前を付ける必要があった。
迷った。
蛇に相応しい名前って何なんだろう…と。
蛇の名前なんて、オロチとか、ヨルムンガンド、ウロボロスなんかもあったな。
精々それ位しか俺は思いつかない。
名前負けもいい所だ…。
もっと神話とか読んでおくべきだった。
結果、赤い目だから「アカメ」にした。
少々微妙な空気にはなったが、最終的にわかり易くて良いじゃないかとなった。
従魔の件は一段落し、問題の倉庫らしき建物だ。
まず翌日、案内する為にじーさんを始め数人の騎士と共に馬車に乗ったのだが、おっさんばかりの中に女の子1人では心細かろうと、女性騎士を付けてくれた。
女性騎士とは、女性の王族の護衛が基本任務で、腕前はエレナ級で、家格は高位貴族という精鋭だ。
わざわざそんな人を付けてくれて親切だなーと暢気な事を考えていたが、お偉いさんはそれだけこの事態を重く見ていたのだろう。
その翌日、一気に踏み込み、調査・鎮圧をしたらしい。
その建物は地下2階・地上2階で、西側のいくつかの国で商いをする中々の大商会の倉庫で、また、国内で仕入れた商品を西側貴族相手に紹介・販売するオークションハウスの様な存在だった。
だが、それはあくまで表向きで、裏ではメサリア内で捕らえた魔物を王都に持ち込み、西側貴族に販売・契約するための施設でもあった。
もちろん違法だ。
建物内に大小様々な魔物は多数いたが、中にはすでに死んでいるのもいたらしい。
アカメはその中の一体に付いていたのだろう。
更に、検問をパスする手段として、王都の外に広がる奴隷や傭兵等が寝泊まりする下町にある宿から、街壁の下を通る穴を掘り、建物の地下にまで繋げていた。
あまりにもストレートな力技だったので、今まで気づかなかったらしい。
元々いくつかの国の貴族が、出国時に従魔を得ている割合が他国より多いとは言われていたようで、今回動いたそうだが、騎士団でも思った以上の事態に驚いていたそうだ。
メサリアだけでなく、同盟諸国でも同様の事が起こっているかもと、すでに各国に連絡を済ませている。
西側諸国との関係に、なにかしら変化が出るかもしれない。
いやはや、アレクのお使いの帰りのちょっとした寄り道から、国際問題にまで発展する事態になるとは思いもしなかった。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・6枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・19枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【】・【赤の盾】・2枚




