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指・甲をそれぞれ10分。
前腕・上腕をそれぞれ20分ずつ。
じっくり時間をかけてやっている。
直に左腕は完了だ。
ブラムス卿はすでに席を外し、世間話をしていた2人がいつの間にか口を閉ざし、テーブルの上のエルメリアの腕を凝視している。
その変わりように驚いているんだろう。
俺も驚いている。
農場で太った人相手に何度か試しはしたが、ここまでじっくりとはやった事が無かったからなぁ…。
「よっし、完了!」
豚足とまでは行かないけれど、俺の足くらいの太さはあった腕が、見事にほっそり、すらりとした腕になった。
ついでにスキンケアもばっちりだ。
服のサイズから考えると元々これくらいだったのかな?
「まあ!まあ!まあ⁉」
驚き目を見開き声を上げるエルメリア。
「素晴らしいわっ!」
同じくオリアナさん。
この人のこんなデカい声初めてかも。
「ほらっ、貴方もごらんなさい!」
そして、部屋に控えていたメイドさんに腕を見せている。
「本当に!奥様の元の美しい腕ですわ」
元以上だぜ?と言いたいところだが、そこは目を瞑ろう。
まずは左腕だけやってみたが、この分だと十分満足しているようだ。
「次右腕やりますよー」
席の右側に移動し、そう告げる。
あと1時間。
頑張るかー。
◇
「ひぃはぁ…」
他のスキルも完全に使いこなせているわけでは無いが、それでもこの【ミラの祝福】。
これはちょっと限界が読めない。
例えば、傷痕が消えたり日焼けが治ったり、あるいは痩せたり。
それだけなら代謝を高めるとかそんな感じだと納得できるんだが、髪の毛の件がある。
どれだけカロリーを消費しても、ストパーはかからないと思うんだ。
このスキルは内側から変化を起こしているのではなく、外側。
つまり、俺によって起こされている。
太った人に使って痩せるのはわかる。
ただ、試す相手がいないからやっていないが、このスキルを、それこそ骨と皮だけの痩せた人に使ったらどうだろうか?
健康状態が改善したり、腹が満たされるかはわからないが、多分身がつくと思うんだ。
少なくとも痩せることは無いはずだ。
その基準は、「ミラ」なのか俺なのかは、まだ検証が不十分でわからないが、このスキルは人を太らせる可能性もあるってことだ。
お貴族様から、それもこんな切羽詰まった事態の依頼を受けるとは思っていなかったから、施療には慎重を期した。
「ど…どーよ…?」
机に突っ伏したまま施療の結果を聞く。
まぁ完璧だって自信はあるがな!
「ええ!素晴らしいわ!」
顔を上げ声のする方を見てみれば、両手を顔の高さに掲げうっとりしているエルメリアが見えた。
「セラ、貴方は大丈夫なのですか?」
「ん…大丈夫」
こちらを気遣うオリアナに答える。
スキルの効果に不明瞭な点がある以上、成果を急がず慎重にかつ集中して行う必要があった。
まぁ、なんてことは無い。
俺の体力では、集中を2時間持続させるのがきつかっただけだ。
「ああっ、ごめんなさい。ついつい見とれてしまっていたわっ!」
いそいそこちらにやって来て、メイドさんにお茶を持ってくるよう申し付けている。
ついでに扇子でパタパタ仰いでくれる。
「とりあえず、満足はしてもらえたみたいだね。他のば」
「ええっ!本当に!まさか間に合うとは思わなかったわ!これでフェルドの家名に泥を塗らずに済むわっ!」
出来を聞こうと思ったんだけど、食い気味で喋りだした。
まぁ、この分なら文句は無いんだろう。
「セラ、机に伏していたけれど、具合はもういいの?」
「うん。普段はもっと短い時間で気を抜いてやってたから、こんな疲れるとは思わなかったんよ。まぁ、でもどれくらいで限界かわかったしもう大丈夫」
このスキルは1日あたり1時間だけ。
休憩挟んだら行けるかもしれないが、無理をする必要もないし、そう決めよう!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・16枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【】・【赤の盾】・1枚




