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【隠れ家】の中からこんにちは。
馬車に潜み、俺のいた街から出ること10日が経った。
孤児院から出て馬車止めに潜んだ翌日に、教会から人がやって来て、そしてその日のうちに出発した。
何でも、少し天気が怪しいから多少無理をしてでも急いだほうがいいとか…。
危なかった。
この10日で5つの村と2つの街を通過し、野盗の襲撃が1回と魔物の襲撃が4回あった。
どちらも小規模なものだったが、俺が一人で歩いていたら間違いなく死んでいた。
危なかった。
その戦闘をリビングのソファーにのんびり寝転がりながら観戦していた。
いや凄かった。
剣やら槍やら振り回して、敵を薙ぎ払うのも凄いが、何より魔法だ。
ローブにとんがり帽子といったいかにもな恰好ではなく、軽装ではあったが普通の冒険者スタイルなので気づかなかったが、この隊に攻撃魔法の使い手が1人いた。
光球を放ち、それが相手にぶつかると破裂するというものだった。
バッティングセンターのボールより少し速く感じたから、130~140キロくらいだろうか?
それ単独では倒せないものの、確実に相手にダメージを与え大きな隙を作っていた。
結構グロい映像のはずだが、感動のあまり何度も見返してしまった。
前世でこの部屋を選んだ理由の一つが、セキュリティー設備の充実だった。
部屋の玄関はもちろん、エントランスホール、駐車場に防犯カメラがあり、それを部屋のTVやPCのモニターから見る事が出来る上に録画も可能。
まぁ、精々タクシーを呼んだ時に確認に使うくらいで、あまり役立つ機会は無かったが、まさかの活躍だ。
いや、堪能した。
さて、この一行。
教会の複数ある聖貨回収部隊の1つで、俺のいた街を含む地域を担当していたらしい。
そして回収を終え領都に向かっているわけなんだが、道中の街等通過がてら観察したが、孤児院があるからか子供が1人で生きていくにはなかなか難しそうな所ばかりだった。
いざとなれば【隠れ家】を駆使して泥棒ライフも可能だが、避けられるならそれは避けた方がいい。
領都って事はこの領地で一番大きい街なんだろうし、そこなら他の街よりは紛れ込めるはず。
会話を盗み聞いたところ日が暮れる前に到着するそうだし、教会に着いたら、タイミングを見て抜け出そう。
箱の中身を整理しながらそんなことを考えていた。
◇
バカでかい街壁を越え街の中心地からいくらか進んだところにある教会。
今はそこの馬車止めに例によって【隠れ家】を使い潜んでいる。
我ながらこれ便利だなー。
教会に着き馬車から荷を下ろし終え、人が途切れたところで馬車から抜け出す事に成功したのだが、どうにも人が多い。
それに加え、帰還した隊が回収した聖貨が何故か見つからず大騒ぎになっている。
この国の貨幣は、銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨で、それぞれ10枚毎に上がっていく。
一応その上に大金貨もあるらしいが、それは商家なんかが取引に使う物で、普段使いする物では無い。
銅貨1枚が日本円で大体10円位で、聖貨は1枚で金貨20枚。
この隊が回収したのは、全部で38枚。
日本円にして約7600万円。
地方ならちょっとした良い家を土地ごと買える。
俺は聖貨の価値を少し怪しんでいる。
何故なら、俺の【隠れ家】は正直金貨20枚じゃ破格過ぎる。
もしかしたら、何か理由があって上限を決められており、実際の価値はずっと上なのかもしれない。
そう考えると外の騒ぎも納得だ。
目の前のテーブルには馬車から消えたはずの聖貨が重ねられ、同じく箱の中に入れられていた30センチ程の高さの女神像と一緒に置かれている。
「ちょっと悪いことしたかもしれんね…」
ついつい行けると思い、教会に着く寸前に【隠れ家】から出て、思わず聖貨を収めた箱を失敬してしまっていた。
この街まで無事辿り着けたのも彼らの力なのだし、少々胸が痛むが仕方が無い。
ここは火竜に出くわしたと思って諦めてもらおう。
ちなみに「火竜に~」は冒険者用語で、予期せぬ不幸に会った時に使う言葉だ。
いつか使ってやろうと思っていたが、念願がかなったな。
そういえば、街に入ってからここに着くまでの間、冒険者らしい姿をたくさん見かけた。
ふふふ、ここを出たら冒険者を目指すのも有りかもしれないな!




