578
「うーむ……まーじで、いねぇなぁ……」
領都とアリオスの街の間に広がる森。
そこのアリオスの街側をクルクルと飛びながら上空から索敵を行っているが、小動物の姿はあっても大型の獣や魔物の姿が見えない。
下ではアレクを筆頭に、2番隊や街の兵士や冒険者に猟師といった連中で組織された調査隊が、いくつもの班に分かれて森に入っている。
武装した人間が大勢いると、魔物は姿を見せない事もあるが……今回魔物の姿が見えないのは、人間が大勢いるからってわけでも無い。
彼等は魔物たちの痕跡を探っているが、俺が気付くより前……大体10日ほど前に、さらに奥に移動していた事が判明している。
この辺は街から微妙な距離で、冒険者たちが狩場にするには向いていない。
さらに、森の側を通る街道は、冬とは言え多少は人も通るが、わざわざその彼等が森に踏み入ることは無いしな。
だからこそ、気付けなかったんだろう。
目を凝らして森の奥を見るが、流石に数キロも離れると単純に視力の問題で、居るのかどうかがわからない。
森のすぐ上を飛び続けるってのは、トリとかの不意打ちに備えないといけないから危険ではあるが、風と盾で守りは十分だし、もっと奥の方まで探るのは可能だと思う。
だが、今日の俺は興味があったからただついて来ただけだしな……。
スタンドプレーは控えた方がいいかな?
そう決めると、索敵を切り上げて地上の隊と合流する事にした。
◇
「ただいま。上から見たけど、この辺にはいないね」
「だろう?」
アレクに上空からの索敵の結果を報告すると、苦笑しながらそう答えた。
周りには捜索隊の班長達も揃っているが、皆似通った表情だ。
この魔物たちがいないってのは、死んだとかではなくて森の奥に集まり一つの群れになっているからだ。
つまり、襲撃の前段階と言っていいだろう。
もっとも、魔境の魔物と違って普通の魔物だから、備えてさえいれば対処できなくは無いんだが……なんだかんだでアリオスの街は最前線ってわけじゃ無いし、そこの住民達も異常事態への耐性は領都の住民ほど高くない。
いざ襲撃が起きれば、兵士は街の中の治安維持にも人手が割かれることになる。
そうなると、中々厳しい戦いになるだろう。
「もう少し奥まで行ってみようか?」
そう提案するが、アレクは首を横に振った。
「お前しか行けないだろう? 魔物の群れがいる事はわかっているし、それで十分さ。それに、戦いになるとしたら街の周辺だからな」
「そっか……アンデッド化にも気を付けないといけないもんね」
「そういうことだ」
アレクが言うように、戦うとしたら街の周辺での防衛戦といった形になる。
これが前世だったなら、集合地帯へ進軍って事も出来たかもしれないが……この世界はなぁ……。
死体を放っておくとアンデッド化してしまう可能性があるから、回収可能な場所か焼却処理できる場所が必要だ。
森の奥でそれをするのはちょっと無理があるな。
俺はまだ見た事が無いが、アンデッドってのは随分厄介な魔物らしい。
特に街への襲撃で発生するのはだ。
倒してすぐになるわけじゃ無く、しばらくしてからアンデッドになり、そして警戒を解いた頃に襲い掛かって来る。
ただでさえ、普通の武器で倒すのが難しいアンデッドだからな。
魔物の襲撃ってのは、魔物の生息地が近くにある場所ならどこでも起きる問題だ。
まだ対処法が確立されていない頃は、魔物の群れ目がけて突貫して、人間側も多くの犠牲を出して倒していた。
そして、魔物の死体は適当に処理してしまい……人間の死体共々アンデッド化して、大惨事を引き起こした事もあったらしい。
そういった事を何度も繰り返して、最終的に街の近くの比較的視界の開けた場所で迎え撃つって形に落ち着いた。
歴史の話だな。
「まあ、こっちの事は上手くやるさ。だが……領都への援軍は厳しいかもしれないな。ジグさんやオーギュストがいるから、心配はいらないと思うが……」
「うん。冒険者の数も多いしね。旦那様たちもそれは想定しているはずだよ」
領都以西でも襲撃が起こる可能性がある。
そう結論付けたリーゼルたちは、2番隊を分けて、そちらの対処に当たらせることにした。
そして、アレクが率いるこの隊が、そのままアリオスの街に駐留することになる。
数は足りないが、魔物たちの強さも控えめだろうし、ある程度数を減らせば散らばっていくらしい。
それに、本命のボスオオカミは領都側の戦力が受け持つ。
ボスを潰せば群れも壊走するし、こちら側もそうなるはず。
最初は冒険者主導で対処する予定だったが、もう騎士団もしっかり関わる事に決めた。
ジグハルトとオーギュストがきっと大活躍するだろうし、いざとなればテレサとフィオーラもいる。
きっと上手くやってくれるだろう。
さて、その後もしばらく地上からの調査を行っていたが、これ以上は何も無いだろうとなって、彼等はアリオスの街へ、そして俺は領都へ引き返すことになった。
◇
「あら? まだ起きているの?」
調査を終えたその日の夜。
セリアーナの執務室で窓から外の様子を見ていると、リーゼルたちと何かの協議を行っていたセリアーナたちが部屋に入ってきた。
テレサだけじゃなくて、エレナとフィオーラも一緒だ。
いざという時のセリアーナの護衛だな。
「うーん……外が気になってね」
防犯のためとはいえ、寝室には窓が付いていない。
その事がわかっているだけに、窓に張り付く俺を見たセリアーナに、いつもの呆れた表情は見えない。
「そう……気持ちはわかるけれど、必要になったら起こすからお前は寝ておきなさい」
屋敷の周りの警備の兵はもちろん、街をうろつく冒険者の数が普段より多いが、今のところ街の外に変わりは無い。
今日は襲撃は無さそうかな?
「それもそうだね……。んじゃ、お先に寝させてもらうね」
「ええ。おやすみなさい」
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】・15枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・33枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・9枚




