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「ぬぬ……もう向こうは暗くなってきてるな」
アリオスの街を発ってしばし。
領都を目指して飛ばしているが、東の空はもう暗くなっている。
冬だからなー……日が落ちるのも早くなってきた。
街道も、アリオスの街に向かっている時はまだ人の往来があったが、今はもう誰もいない。
「まぁ……危ないもんな。明るいうちよりも暗くなってからの方が魔物の活動は活発になるし……」
魔物も獣も夜行性ってわけじゃ無いんだろうが、昼間よりも夜の方がアグレッシブになるそうだ。
俺は夜外に出ることは滅多に無いから、あくまで伝聞に過ぎないが、街道なんかも夜の方が危険らしい。
らしいのだが……。
「おかしいな?」
街道沿いに【浮き玉】を飛ばしていたのだが、いったん止まりその場で滞空する。
そして、周囲を見渡した。
……魔物や獣の気配がない。
この街道は草原や森が両端に広がっている。
リアーナならちょっと街の外に出たら、どこも同じ光景が広がっているが、当然そこには魔物も獣も多数生息している。
昼間だろうと、街道を歩く人間が油断したらすぐさま襲ってきたりする。
俺も【風の衣】を得る前は、そこまで速度を出さずに飛んでいたため、よく追いかけられたもんだ。
よく見るとウサギやリスらしき小動物の気配はあるが、人を襲うようなある程度の大きさの魔物や獣の気配が一切感じられない。
そう言えばあまり気に留めていなかったが、行きでもそうだった。
街道に姿を現すかどうかはともかく、いつもは森の端に潜み、隙のある人間が通らないかを探っているのがいたのに……。
「これも襲撃が影響しているのかな……? 急いで戻るか」
襲撃に関連しているかはともかく、何か異常事態が起きているのは間違いなさそうだ。
役に立つかはともかく、報告しておいた方がいいだろう。
「……ほっ!」
風と盾を張り直して、領都目指して一気に加速した。
◇
領都の屋敷に辿り着くと、例によって俺の接近を察したのか執務室の窓が開いていた。
そこへ飛び込み、中に向かってまずは一言。
「たでーまー!」
次いで中を見渡すと、行きの挨拶の時に寄ったよりも人数が増えている。
支部長本人はいないが、彼の部屋で見た事のある冒険者ギルドの職員たちが来ているな。
文官達と一緒に何やら仕事をしている様だ。
普段は見かけないし、襲撃の備えについてだろうな。
「お帰りなさいませ」
窓のすぐ側に控えていたのか、テレサがすぐにやって来た。
最近の彼女は騎士団本部に詰めている事が多いが、今日はもうそっちは終わったのかな?
ポーチを受け取ろうと手を出してきたが、それは断った。
「ありがと、テレサ。でもちょっと報告したいことがあるからね」
「何かあったのかい?」
今のやり取りが聞こえたのだろう。
リーゼルが、何事かと声をかけてきた。
「うん。帰って来る途中なんだけどね……」
領都とアリオスの街の間で気づいた、魔物たちの気配が無い事を伝えると、すぐさま文官達を集めて話が始まった。
断片的に漏れ聞こえる内容から推測するに、どうやら今回の襲撃のボスは、一の山に縄張りを持つオオカミの魔獣らしい。
広範囲の魔物を集めていて、一の森を始め魔境の浅瀬から魔物の姿が消えている。
魔王種かどうかはわからないが、多様な魔物の群れを率いる器量がある、中々強力な個体なんだとか。
ここ最近は、ダンジョン探索許可を得るための魔境の狩りもひと段落しているにもかかわらず、妙に浅瀬での魔物の遭遇率が低いことから、冒険者ギルドは念のため調べさせていたらしい。
浅瀬の広範囲に渡って魔物の数が減り、代わりに森の奥に行くほどに姿は見えなくても、多くの魔物の痕跡が見つかった。
さらに追跡を続けて行き、遂には一の山の麓に集まる魔物の大群を発見したんだとか。
そして、遠吠えの順番からオオカミがボスであると突き止めた。
で、彼等が持って来たその情報から、そこの餌が尽きて群れが破綻するタイミングを計算して、こちら側を襲ってくる日時を推測した。
……凄いね。
だが、俺の持って帰って来た情報が何か不味かったのか、皆深刻な顔をしている。
「セラ副長。その……勘違いという事は無いのか?」
ある1人が恐る恐ると言った様子で、俺の情報に間違いが無いかの確認をしてきた。
確認は大事だが……。
「コレとこの子らの目で見たから、少なくとも街道周辺の森に魔物がいないのは確かだよ」
俺は、頭の上に浮かんでいる【妖精の瞳】と首元から頭を覗かせているアカメを指した。
第六感的なもので捉えるんじゃなくて、俺は目で直接見る事が出来る。
外の魔物の生態に詳しいわけじゃ無いから、もしかしたら何かの事情で姿を消しているって可能性もゼロではないが、少なくとも姿が見えなかった事が勘違いってのは、無い。
「確かに……君の恩恵品と従魔なら見間違いという事は無いだろうね。ありがとうセラ君。貴重な情報だよ」
と、リーゼルはいつもと様子に変わりは無いな。
だが、後ろの連中を見るに、ちょっと面倒な事態が起こっていそうだ。
「セリア、僕たちの方は少し長引きそうだから、君は先に上がってくれ。それと、アレクシオとジグハルトが戻って来たら彼等を借りるよ」
あの2人を呼ぶって事は結構な事態だと思うが……なにかあてが外れたのかな?
「ええ。好きにして頂戴」
セリアーナも普段と変わらない。
軽く答えると席を立ち、自室に戻ると俺たちに言い、ドアへと歩き始めた。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】・【浮き玉】+1【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】・25枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・33枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・9枚




