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俺は前世からムカデが苦手だ。
いや、苦手というよりかは嫌いだ。
まぁ、好きな人はあんまいないかもしれないが……。
困った事にこの世界にはクソデカいムカデの魔物が存在する。
オオムカデという名で、初めて見た時は叫んだもんだ。
……そのクソデカいムカデが今土柱の上から俺を見下ろしている。
2メートルくらいの距離で。
「ひぃぃいいいぃぃっ!?」
駄目だ。
もう完全にムカデに意識が行ってしまっている。
どこか冷静な自分もいるが、悲鳴が止まらん。
そして俺の攻撃手段じゃ、この距離はどうにもならな……ん?
「っ!?」
そのムカデが一瞬で光に貫かれ消し炭になった。
ジグハルトだ。
流石頼れるおっさんだ。
凄いぞピカピカ親父!
「うおおおおおっ!?」
「ほ?」
心の中でジグハルトを讃える言葉を列挙していると、下から気合のこもった声が耳に飛び込んで来た。
俺がムカデの脅威から脱し、喜びに打ち震えているのに、水を差すだなんて……無粋な!
「ん?」
文句でも言ってやろうかと声のした方を見ると、オーギュストが、剣にさらに光る大きな刃を被せて振り抜いた姿があった。
そして、ボスザルが崩れ落ちている。
少し離れた場所に足らしきものが転がっているし、オーギュストのあの光る刃が斬り飛ばしたんだろう。
……そういやボスザルの相手をしていたんだった。
パニックですっかり忘れていたが……戦闘を続けていたらしい。
オーギュストのあの光る刃が、決めるための手段だったんだろう。
恩恵品ってよりかは、何かの加護っぽいけど……結局俺は隙を作る事が出来なかった。
どうやったんだろう?
全く見ていなかった……。
少々驚き眺めていると、アレクが近くに放り投げていた棍棒を拾い上げている。
片足になったとはいえ、まだまだ動いているし油断はできないだろうが、ボスザルはそろそろボコられるかもしれないな。
◇
ボスザルの背後に回り込んだ時と同じように、やや遠回りをしながらジグハルトの元へと戻ってきた。
彼の警戒はもう奥からやってくる魔物達の方に移っている様で、ボスザルの方には時折小さい光弾をぶつけて牽制しているが、もう戦闘は2人に任せている。
「ジグさん」
「おう。大丈夫だったか?」
ムカデの件だろうか?
こちらを気遣うような事を言ってきたが……顔は笑っている。
「いい囮だったぜ? お前の悲鳴に釣られた隙を上手く決めていたな」
「くっ……!?」
実に楽しそうだ。
だが、どうやって隙をついたのか気になっていたが、答えがわかった。
俺の蹴りは全く効かなかったのに、悲鳴には反応したのか。
ロリザルめ……。
「んっんっ……まぁ、いいや。んで、あっちはもう2人に任せて大丈夫なのかな? オレはどうしよう?」
気を取り直して、気になることを聞く。
両足が揃っていた時と違って、今のボスザルは移動をほとんどせずに腕を振り回している。
それを正面から掻い潜って攻撃できるアレク達なら、足を止めている状況の今こそ攻め時だろうが、俺はちょっときつい。
不規則で読めない攻撃なんて最も相性が悪いものだしな。
もっとも、動きが無い分【ダンレムの糸】でゆっくり狙いをつける事は出来そうだが……。
「ああ。一応警戒は続けるが……流石にここからひっくり返す事は出来ないだろうよ。俺がやってもいいが、素材にするなら魔法で焼き切るよりは、あっちの方がより多く使える部分が残るだろうしな」
「なるほど……」
もう勝ちは決まった様なものなのか。
俺の弓もジグハルトの魔法も、素材を結構消し飛ばしちゃうからな……。
チラリとボスザルの方を見ると、またもオーギュストが光る刃を振り下ろし、今度は右腕を斬り飛ばしている。
核はどうやら胸元にあるようだが、仮に違ったとしても、あの方法ならそうそう潰してしまうことは無いだろう。
「セラ、こちらはもう大丈夫だと向こうに伝えて来てくれ。合流して一気に向こうも決めちまおう」
「りょうかい!」
向こうを見ると、まだまだ余裕はありそうだが、それでも核を潰せていないのか魔物の死体が大分溜まって来ている。
どれくらい倒したのかはわからないが、休憩も必要だろう。
◇
「ただいま!」
戦闘が一段落してからだし気付いてはいるだろうが、それでも一応3人に声をかける。
「お帰りなさい。貴方の悲鳴が聞こえていたけれど……大丈夫?」
他の2人が魔物の核を潰している中、少々手持ち無沙汰にしているフィオーラが答えた。
が……アレはこちらにまで届いていたのか。
「うん……なんでもないよ。……それよりも、向こうはもう片が付きそうなんだ。だから、皆もあっちに合流して欲しいって。いける?」
「死体の処理は済ませたいな。セラ、君のヘビ達も使って手伝ってくれないか?」
死体の頭部や胸部を剣で突いたり、魔法で撃ったりして核を潰しているルバンが、俺にも参加するように言ってきた。
だが……。
「む? 了解……でも、いいの?」
聖貨は核を潰した者がってわけじゃ無いだろうけれど、単純にウチの子のパワーアップに繋がる。
その事はこの面子にはちょっと話したことがある。
労せず利益を得てしまうが……。
「ええ。私達には意味はありませんし、何より死体を放置する方が問題ですしね。それに今は丁度増援が途切れている様です。今のうちに終わらせてしまいましょう」
今度はテレサもだ。
「そか……わかった。んじゃ、奥のからやってくね」
何となく美味しい所を頂いてしまう様で申し訳ないが、確かに死体の放置の方が問題だ。
ここは有難く手伝わせてもらおう。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】・60枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




