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ボスザルの咆哮から数分程だろうか?
ダンジョンの奥からこちらに向かって魔物の群れがやって来た。
種類は主に魔獣種の中でも大型。
イノシシやウシだ。
別にそいつらはいい。
猪突猛進って言葉通り、真っ直ぐ突っ込んで来るだけで、数は多いし、上層で遭遇したモノたちよりも強いが、十分対処ができる。
厄介なのは……。
「ほっ!」
オオシカの首を【足環】で捉え、ヘビ君達に止めを任せる。
そして、俺はすぐに離脱だ。
「……ぉわっ!?」
すぐに離脱したにもかかわらず、俺が先程いた場所にオオカミが牙を立てていた。
魔王種製の防具を身に着けているとはいえ、噛みつかれるのは御免だ。
【影の剣】も【緋蜂の針】も威力は十分だが、どうしても接近しなければならない。
1体ずつや少数なら問題無いが……この群れを相手には、隙を作らず倒して離脱は難しい。
迂闊に突っ込んでも、後続に撥ね飛ばされるだけだ。
「よっと……!」
周囲に注意を払いながら、魔物の背を【足環】で掴み、ヘビ達に攻撃させてからの離脱。
船じゃ無いが、八艘飛びみたいなもんだ。
止めを刺せないから、聖貨を得る事は出来ないが……安全第一だ。
「セラ! 離れろっ!」
「!?」
ルバンの声に慌てて魔物の群れから距離を取ると、その空いた空間をすぐさま赤い光が貫いた。
「ぉぉぅ……」
今の一発で10体以上の魔物を巻き込んでいるが……それでもまだまだ、奥から援軍がわんさかやって来ている。
魔獣種を中心に、たまにゴブリンなんかの小物も混ざっているが、とにかく多い。
俺は大物を中心に倒しているが、大分後ろに漏れてしまっている。
もっとも……。
「くっ!?」
フィオーラがその抜けて行った魔物達を魔法で一掃した。
火……というよりも高熱で焼き切る様な魔法で、強烈な光を放つ魔法だ。
ジグハルトの閃光や俺のふらっしゅの様に、目潰し目的じゃないが、それでもモロに見ると中々きつい。
さらに生き残った魔物は、フィオーラの守りについているテレサが、確実に刈り取っている。
こっち側は心配いらないな。
魔物を集めているが、余裕を持って対処出来ている。
強いて不安要素を挙げるなら、俺が油断して攻撃を食らってしまう事くらいか?
この強さの魔物相手に乱戦はきついな。
上に逃げるのも今は止めているし……おっと、それよりも……。
「そろそろ更新か……。ちょっと離脱ー!」
まずはこちらに【祈り】をかけて、お次は向こうでボスザルを相手にしている3人にだ!
◇
ボスザルとの戦闘はやや地味に展開されている。
アレクが攻撃を引き付け、オーギュストが削り、離れた位置からジグハルトがボスザルの動きを牽制している。
俺もずっと見ているわけにはいかないから、正確にはわからないが、恐らく逃がさないように、手前に釣り出す事を優先しているんだろう。
この階層はまだよくわかっていないしな……本気で逃げの一手を打たれたら追いつけないかもしれない。
相手は魔王種かも知れないのに、随分冷静だ。
……経験の差かな?
「セラか」
「【祈り】をかけに来たよ。どんな感じ? ジグさん」
ジグハルトはボスザルから目を離していないが、俺の接近に気付いたようだ。
何で気付かれるんだろうか……。
「悪くは無いな……。倒すだけなら、恐らく胸元の黒い部分が核だろうし、あそこを貫けばいいんだろうが……それだと消えちまうからな。折角お前がいるんだし全部持って帰りたいだろう?」
「そだね」
……魔王種とはいっても、ダンジョン産の魔物だ。
核があるって事はうっかり潰してしまうと、遺物は落とすかもしれないが、折角の魔王種の遺骸が消えてしまうかもしれない。
「ただ……決め手に欠けるのは確かだな。手足のどれかを落としたいんだが、急いで逃がすのも不味いし、デカい一撃は撃てないから、どうしても攻めはオーギュスト頼りになる」
「ふむ……」
腕での一撃をアレクが盾で受けて、その隙をついてオーギュストが左足に斬りつけている。
優先的にそこを狙っている様だが……まだまだ浅い。
こっちがやられる事は無さそうだが……。
「あいつも加護がある。切り落とすだけなら可能だろうが、警戒されたらな……。俺も離れた位置から足止めくらいしか出来ねぇ」
ジグハルトは、ちょっと困った様子でボヤいている。
強敵相手に加減しながら倒さなきゃいけないのか……そりゃ面倒。
「隙を作ればいいのかな?」
「一手でいいんだ。やれるか?」
「わからんけど……多分いけそうな気はする」
先程から戦いを見ていて、何となくだが動きがわかってきた。
ボスザルボスザルと言ってはいるが、正確にはゴリラに近い体型で、サイズは直立したら3メートルくらいはありそうなビッグサイズ。
両足での移動もしているが、腕を使いながらの方が機敏だ。
そのため、攻撃は主に左右どちらかの腕のみで行っている。
実にシンプルな攻撃だ。
もっとも、それでも威力は十分な様で、アレクも攻撃を受ける際は、【強撃】を発動して盾でカウンターの様に弾いている。
とはいえ、攻撃の際は正面は流石に無理でも、背後はがら空きだ。
そこを突けば、オーギュストの何か知らんが大技を繰り出すだけの隙を作れるかもしれない。
「まだまだこちらも向こうも余裕はある。無理はしなくていいが……頼む」
後ろのテレサ達の様子を窺い、ジグハルトはそう言ってきた。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】・60枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




