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「もう首はしっかりすわってるんだね……ハイハイはまだかな?」
セリアーナの応接室に置かれた、子供用の柵が付いたベッドに座っている赤ん坊たちを見て、成長の早さに驚いてしまう。
普段は抱かれているか、眠っている姿しか見ないからなぁ……。
まだ長時間は無理な様だが、手を前に突いてならちょっとは1人でも座れている。
まぁ、3人とも生まれてそろそろ半年位経つし、普通なのかな?
ハイハイは何時頃からなんだろう?
前世を思い出すが、あまりはっきりとは覚えていないしな……確か半年を少し過ぎた頃からだった気がするが……。
ベッドから少し離れた場所にあるソファーに座っているエレナに、その事を訊ねてみた。
この世界は妊娠期間が少し短かったりするし、赤ん坊の成長速度も違ったりするのかな?
「それはもう少し先だね……。君も赤ん坊の世話は慣れていないと言っていた割には、すっかり上手になったじゃない」
なるほど……あんまり成長速度は変わらないのかもしれないな。
「……それを世話というのかは疑問よね」
ついでに俺のお世話スキルの向上を褒めるエレナと、
「ぬ」
「ソレが普通の人間と思われても困るから、程ほどにしてこちらに来なさい」
セリアーナが俺の尻尾や【浮き玉】を指して、そう言ってきた。
「むぅ……」
まぁ……確かに、宙に浮きながら、両手と尻尾でおもちゃを扱う人間に慣れられても困るか……?
正式名称は知らないが、振ると音の鳴るおもちゃ……前世ではガラガラとか言ってたっけ?
それをマラカスの様に軽快に振っていたのだが、そろそろ止めておくか。
「セラ様、代わっていただきありがとうございます。あちらで奥様達とお茶をしていてください」
乳母達が笑いを堪えながら近づいてきた。
「そかー……んじゃ、お願い」
おもちゃを彼女達に渡して、セリアーナ達の元に移動した。
◇
ダンジョンが出現してから1月以上経ち、浅瀬と上層のマップ調査はほぼ完了した。
と、いう訳で今日の探索はお休みだ。
浅瀬も上層も、どちらも北を目指せば次の階層への通路に辿り着くし、コンパスも狂ったりはしないため、準備さえすれば迷ったりする事も無い。
さらに、警戒している事故も、領地で活動するクランや戦士団から冒険者をダンジョン内に常駐させることで、対処できるようにしていくそうだ。
森の様になっていてあまり見通しは良くないが、それでも階層全体が開けた構造だから可能らしい。
冒険者は、領主側とくっ付くと色々メリットがあるが、こういった奉仕も必要になるのだ。
……まぁ、この先行調査もそのメリットの一つだし、事前に美味しい情報を身内だけで共有できているし、上手く先行できる。
なにはともあれ、これでセリアーナ達が警戒している、ダンジョン一般開放初期のどさくさに紛れて起こした事故で、ダンジョン維持費を吊り上げたりとかの小細工は潰せそうだ。
開放当初に、混雑するであろう浅瀬が、比較的サポートに入りやすい構造で助かった。
流石にダンジョンでの死者をゼロには出来なくても、吸収されてしまう前に死体の回収は間に合いそうだしな……。
足場が見えにくいのが難点かも知れないが……そこは人海戦術でカバーだ。
上層で面白かったのは、東と西回りで行くと、途中に小さい池の様な水場があった事だろうか?
浅瀬の植物と同じく微量にだが魔力が混ざっているが、魔物は生息せず飲料用にしても問題無いそうだ。
上層は、通路での休憩は難しくても、そこを上手く活用できれば、長時間の狩りも可能になるかもしれない。
早い段階で先の階層の情報を伝える様な事はしないが、いずれはそこら辺も共有していくそうだ。
何というか……いたれりつくせり?
ゼルキスや王都のダンジョンと比較するとそんな気もするが、内部で死なれたら困るし、しっかり稼いで領地に還元してもらわないと困る。
理想はガンガン冒険者が探索に繰り出して、ジャンジャン稼いで、そして、領主に聖貨を売って貰う事だろう。
領主教育の一環で、ダンジョン運営のノウハウもあって、騎士団や冒険者ギルドとの連携についても、その段階で学ぶらしい。
リーゼルなら上手い事やってくれるだろう。
そして中層……。
中層に繋がる通路の手前までは何度か行ったが、結局そこから先には踏み込んでいない。
浅瀬や上層に比べたら出現する魔物の強さが変わるのも納得できるが、だからといってあの気配は異常だと判断して、今はゼルキスや周辺領地の冒険者ギルドに連絡をして、情報を待っている状態だ。
昔の事になるし、まだリアーナにダンジョンが出来た事は秘密だから、どこまで正確な情報が入って来るかはわからないが、それでも何が起こるかわからないから、慎重を期すそうだ。
まぁ、予測は付いているらしい。
俺は読んだ事は無いが、ダンジョンを題材にした古い本では、たまにボスといっていい様な存在が出て来る。
各国のダンジョンを潜った経験のあるジグハルトでも出くわしたことは無いが、彼の潜ってきたダンジョンが舞台の本でも、そのボスが登場したことがあるらしい。
創作と切り捨ててしまってもいいが、もしかしたら一回限りの大物がダンジョンには存在する可能性もある。
もちろん魔人の可能性もあるが、一般開放する前に、領主が選抜した探索部隊が倒す為、情報が広まらない……。
俺は有り得ると思うし、他の皆もそう考えているようだ。
どの道近いうち挑む事になるだろうから、答え合わせが出来るな。
ゲームのボス戦の様に逃げられないってことは無いだろうし、そもそもウチのパーティーメンバーは強力だ。
ボス戦……楽しみだな……!
「ぬふふ……あいたっ!?」
来るボス戦を想像し思わず笑いを漏らすと、耳掃除をしていたセリアーナに額をペシリと叩かれ、思わず頭を上げてしまう。
「動かないの」
「はーい……」
返事をして、再び頭を膝の上に乗せた。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】・48枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




