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「……あれ? 誰もいない」
帰還したその日、早めの食事をとると俺はベッドに入った。
もう使い慣れて、いつも通りに起きる事が出来るようになっているが、睡眠時の【ミラの祝福】も無しだったから、スパッと早起きが出来ると思っていたのだが……。
寝室には、たとえ昼に起きてもいつもは誰かしらいるのに、今日は誰もいない。
そんなに起きるのが遅かったんだろうか……?
「誰かいるー? ……あ」
寝室から出て応接室に向かうと、子供達と乳母さん達はいた。
だが、セリアーナ達がいない……。
「おはようございます、セラ様。奥様方は20分程前に旦那様からの使いに呼ばれ、執務室に向かわれました。もし、セラ様が目を覚まされたらこちらまで来るように、と仰っていました」
「ほむ……」
これは……出来たのかな?
彼女達乳母を雇ってもう数ヶ月になるし、セリアーナ達も信用はしている。
それでも、俺が知る限り子供達を彼女達に預けて、3人とも部屋から出て行くことは無かった。
さらに俺にも来るように言っているってことは、この部屋は完全にフリーになる。
つまり、それだけの事態が起こったって事だろう。
ダンジョンだな。
「わかった。じゃあ行ってくるから、子供達をお願いね」
そう伝え、すぐにリーゼルの執務室に向かおうとドアに急いだが……。
「あ! セラ様」
ドアに手をかけたところで、別の乳母に呼び止められた。
何だろうか?
「昨晩、小さいものですが地震がありました。それ以降は起きていませんが、セラ様はお休みになられていたので……浮いているから心配は無いと思いますが、お気を付けください」
「……ぉぅ。全然気づかんかったよ。ありがとうね」
そう言い、今度こそ部屋から出て、リーゼルの執務室に向けて移動する。
一応この国でも地震はあるが、震度でいうなら1か2か……小さいものだ。
頻度も年に1回あるかどうか程度。
ダンジョン出現の余波かもしれないな。
◇
「おお……セラ殿か。領主様達は向こうの部屋だ、議題はわからぬが、奥方様もいて、君が来たらすぐ通すようにと仰っていた」
執務室に入ると、俺を見た文官がすぐに隣に行くように伝えてきた。
ここにいる彼等は、どうやらダンジョンの事は知らないようだ。
この領地を切り盛りしている連中なのに、徹底しているな……。
「セラでーす。入りますよー?」
中に誰がいるのかは知らないが、どうせいつもの面々だ。
皆腕利きだし、何よりセリアーナがいるから、俺の事には気付いているだろうし、とノックをすると、返事を待たずにドアを開けた。
「やあ、セラ君。よく寝れたかい?」
「うん。ぐっすりと!」
部屋に入るとまずはリーゼルが出迎えた。
中には……うん……いつものメンバーが揃っているな。
「セラ」
俺を呼んだセリアーナが、いつものように自分の隣を指している。
そちらに向かい【浮き玉】から降りて座るが、今はどのような話をしていたんだろうか?
「さて……、セラ君が来たことだし、少し休憩にしようか。オーギュスト」
「はっ」
そう言うと、オーギュストは立ち上がり、部屋の隅に備え付けられた小さなキッチンに向かっていった。
お茶でも入れるのだろうか……?
「俺もやろう。昨日セラから貰ったのを持って来ているんだ」
「ああ、ありがとうございます」
同じくジグハルトもだ。
王都での土産に、外国や王国西部の、リアーナじゃあまり入って来ないお茶を買って来たのだが、早速使ってくれているらしい。
キッチンで仲良く作業をするおっさん二人をしばし眺めていると、セリアーナが我に返ったように話を始めた。
「お前は熟睡していたから気づかなかったでしょうけれど、昨晩ダンジョンが無事出現したわ。その際に小さいけれど地震があったのだけれど、幸い街に被害は出ていなかったそうね」
「私とジグがその儀式を行っていたのだけれど……アレには驚いたわ。セラ、【妖精の瞳】を使って、外を見てみなさい」
セリアーナの言葉を継いだフィオーラが窓の外を指している。
言われた通りに【妖精の瞳】を発動して、外を見てみると……。
「……? 何も変わって無いけど……?」
いつも通りの光景だ。
只でさえ高台にあるこの屋敷だ。
強いて言うなら外には街壁が見えるくらいで、ここからは何も面白いものは見えない。
「ええ、そうね。でも微弱にだけれど、結界が発動しているの。この街にはまだ結界を張っていないのに……確かに結界の要になるこの屋敷と連結してはいたけれど、ダンジョンだけでも効果を持つなんて……面白いわね」
フィオーラは自分が知らなかった新情報に心を躍らせている様だが……。
身体を伸ばし、セリアーナの耳元に顔を寄せて小声で、湧いた疑問をぶつけてみる。
「結局弱い結界だから、あんまり意味ないんじゃない?」
「そうね。まあ、彼女にとっては何か大きな意味を持つ事だったんじゃないかしら? それか単に面白かったとか」
軽く頷きながら答えるが、あまり興味は無さそうだ。
「……きっと後者だね。でも、ちゃんとダンジョンが出来たんだね」
「ええ。今日は誰が最初にダンジョンへ潜るかを決めるのよ。お前は行きたい?」
「行きたい!」
一番乗りとかそういうのには興味ないが、ようやく自前のダンジョンだ。
死体の処理の関係で、外での狩りは俺には向いていないからな……。
「あはは。セラ君はメンバーに入っているよ。初めての場所では君の索敵能力は貴重だからね。皆を守ってくれ」
と、リーゼルが笑いながら言ってきた。
「ダンジョンは冒険者ギルドの地下にあるが、上への階段はまだ塞がれている。この屋敷からしか繋がっていないんだ。しばらくは極めて限られた者達だけで利用することになるから、君も好きに動けるよ」
「……ぉぉぉ」
リーゼルの言葉に少々震えてしまった。
武者震いってやつだ。
今まで俺は好きにやっていたが、それでも人目に気を付けながらの狩りだった。
だが……色々試したかったことが、ようやくできそうだ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・0枚




