411 セリアーナside
「奥様、フィオーラ様がお越しです」
「通して頂戴」
フィオーラの来訪を告げる使用人に部屋に通すように伝える。
彼女に言われなくても、フィオーラが部屋に向かっているのはわかっていたし、わざわざ許可を取らなくてもいいのだが……やはりセラの様に融通を利かせられる者はいない。
領都を発ってもう10日程になるが、帰還はまだかかりそうだろうか?
「ん? なによ……」
抱いているリオネスに髪を引かれて、思わず吐きそうになった溜息は止められた。
乳母に抱かれているレオニスは大人しく昼寝をしているが、この子はまだまだ寝そうにない。
「お邪魔するわね……あら、間が悪かったかしら?」
部屋に通されたフィオーラは、私に抱かれているリオネスを見てそう言ったが、気にすることは無い。
「問題無いわ。あなた、この子をお願い。話は向こうで聞くわ……っもう……暴れないの」
もう一人の乳母に娘を渡そうとすると、それが嫌なのか手足をバタつかせたり、服を掴んだりと抵抗を始めた。
あまり泣きはしないが、我が子ながら元気な娘だ。
「その娘も一緒で構わないでしょう? ねえ、エレナ」
「ええ。ルカは寝ていますし……私が抱いておきましょうか?」
エレナがそう申し出てくるが、何も抱くことが嫌なわけじゃ無い。
「いえ、このまま私が抱いているわ。行きましょう」
大人の会話に子供を同席させるのは趣味じゃ無いが……赤子だし構わないか。
◇
寝室に場を変えて、銘々好きな場所に座った。
「それで、どうなの?」
エレナがお茶の用意をしている間に、簡単に事の進捗を聞いておく。
それ次第で、セラが王都から戻り次第すぐに取り掛かれるようになる。
「順調よ。まだ地上とは繋がっていない冒険者ギルドの地下2階部分。そこにしっかりと穴を用意して、魔王種の素材で全体のコーティングも済んだわ。後は聖貨が手元に来てからね」
「ダンジョンを造り上げるのはどれくらいかかるのでしょうか? 初期探索にアレクやジグ殿が駆り出されますが、時期次第では怪しまれてしまいますよ」
「資料には2日程度としか書かれていないけれど、やってみないとわからないわね」
お茶を置きながら口にしたエレナの疑問に、フィオーラは肩を竦めている。
なんといっても、新規のダンジョンなんてこの国でも数十年以来だ。
フィオーラ達ですら技術、知識としては知っていても、実際に手掛けるのは初めてでどれくらい時間がかかるかはわからない。
折角、セラの運搬手段を限定的とはいえ明かしたのだから、無駄にはしたくないが……。
「こればかりは仕方ないわね。人手をかければいいというものでも無いのでしょう?」
領地どころか、その時期が何時かと注目している大陸各国を出し抜くために、冒険者ギルドの地下工事は別にしても、肝心の部分はフィオーラとジグハルト、後数名だけだ。
「そうね。聖貨と聖像、結界の要と同等の素材……必要な物はそれだけで、後は実際にやってみるだけよ。……あら良い味ね」
フィオーラはエレナの淹れたお茶を口にし、味を褒めている。
これ以上は話せることは無いのだろう……ここまでか。
私も抱いたままの娘に気を付けながら、前に置かれたカップに手を伸ばしたが……。
「あら本当。最近腕を上げたの?」
確かに味も香りも良い。
以前も下手では無かったが、今の方がずっと上だ。
「ええ。最近乳母達と話をした時にコツを教わりました……」
2人はお茶の淹れ方で盛り上がっている。
私は飲むのは好きだが、淹れるのはそこまで好きではない。
【隠れ家】のあの便利な器具でなら良いのだけれど……。
「……ふん」
また溜息を吐きそうになるも、娘と目が合い、それを止めた。
◇
「……はい。もう動いて貰ってよろしいですよ」
画家の言葉を合図に、リーゼルと同じタイミングで立ち上がった。
子供達も機嫌は悪く無い様で、大人しくしていて何よりだ。
時間に余裕のあるうちに、家族の肖像画を描くことになった。
場所は談話室だが、今日はあくまでスケッチで背景は後で適当に弄らせればいい。
「その……閣下。ご要望通りにここの間を空けていますが、よろしかったんでしょうか?」
私とリーゼルはそれぞれ子供を抱いて椅子に掛けているが、少し間を空けている。
それを気にしたのだろう。
画家は恐る恐ると言った様子で、確認をしている。
「ああ。ここにもう一人入る予定なんだ。今は領地を空けていて姿を見せられないが、もうあと数日のうちに戻って来るはずだ。君は完成するまで屋敷に滞在するんだろう? そこを空けたまま、進められるところだけ進めておいてくれ」
リーゼルはスケッチの出来を確認しながら答えた。
本当ならあの娘もいる状況が良かったが、帰還の正確な日付がわからないし、今日は子供達の機嫌も良かった。
どうせ修正を入れたりするのだし、それなら後で描かせてもいいだろう。
「セリア、君も見たらどうだい? いい出来だよ」
リーゼルは出来を気に入ったようで、私にも見る様に言ってきた。
「あ……ありがとうございます」
それを聞いた画家や彼の弟子たちは慌ててリーゼルに頭を下げている。
「私は後で良いわ」
彼等の接し方は間違ってはいないが、こうも頭を下げられ続けるといい加減うんざりしてくる。
あの生意気な娘、さっさと帰ってこないかしら。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・0枚




