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聖貨を【隠れ家】に放り込んでから4日が経った。
俺はその間はじーさん達と街に買い物に出かけていたが、テレサは別行動をとっていた。
彼女のリアーナ行きは随分急に決まったため、碌に挨拶が出来なかったため、知人への挨拶行脚だ。
相手は主に実家の関係者や親戚だったり親衛隊の先輩方で、後者は王都に住んでいるが、前者は、俺達が急に王都に来た事もあって連絡はとれていなかった。
だが、幸い時期的に地方の貴族が王都に集まる春の1月という事もあって、急な話だが上手く会う事が出来たそうだ。
今後も王都屋敷の人員の件等で付き合いがあるだろうし、ミュラー家とも連携を取っていく事になるだろう。
表向きには本命の用件である、リアーナ領嫡子の誕生報告を各所に済ませたし、祝いの品も受け取った。
それらの大半は船便で送られ、極一部のセリアーナが所望しそうな物……具体的には書籍類だが、それらは、俺が王都で買い込んだ品と一緒に【隠れ家】に突っ込んだ。
俺自身も知らなかったが、本来の目的である聖貨も受け取り、これで王都での俺達の仕事は終わり、後は帰還するだけとなった。
出発から何だかんだで2週間近くリアーナを離れていたな。
行きは王都に向かう者達が多くて、彼等の目を避ける為に時間をかけたが、今はまだ王都に滞在したままで、むしろ平時よりも外を移動する者は少ないはずだ。
王都を発つのは明日の夕方。
天気もしばらく崩れることは無いそうだし、帰りはスムーズに行けそうだな。
◇
出発当日。
オリアナさんとは例によって屋敷で別れを済ませて、今は馬車で王都の東門まで向かっている。
中にはじーさんも乗っていて、テレサと話をしている。
「私ももう年だからな……近いうちに王都での役割は別の者に譲ることになる」
「戦術研究はどうされるのですか? 騎士団ではまだまだアリオス様を必要としているでしょう?」
「もう後数年でユーゼフも引くからな……それまでには仕上げるさ」
漏れ聞こえる話から察するに、どうやら近いうちに引退を考えている様だ。
2人ともいい歳だしな……この世界は厳密には定年なんて無いが、だからと言って死ぬまでその席についていても次が育たないし、ある程度キリの良い所で譲るんだろう。
「その後はどーするの?」
「ゼルキスに戻る予定だ。アイゼンの教育の手伝いもいるだろうしな……後は、リアーナを見るのも悪くないな。ルトルの頃から土地を切り拓いただけで、結局ほとんどかかわりを持てなかったし、今がどうなっているかも気になる」
「セリアーナ様もですが、アリオスの街の者たちも喜びますよ」
テレサの言葉に、じーさんは少々照れ臭そうにしている。
あの街じゃ、半ば英雄みたいなものだし、間違っちゃいないな。
「オリアナもひ孫達の顔を見たいだろうし、悪くないな……。まあ、まだ先の事だ。そろそろ着くな……準備はいいか?」
とうに貴族街は出て、もうすぐ東門に到着する。
そろそろお喋りはお終いだ。
程なくして馬車が止まり、ドアを御者に開けられた。
「ええ、大丈夫です。コレ1つですから……」
テレサは空のバッグを掲げて見せた。
そう言うと彼女は先に馬車から降りて行った。
「ふんっ……便利なものだ。セリアーナ達に息災であるように伝えておいてくれ。セラ、お前もな」
「うん。じーさんもね」
何だかんだでこのじーさんとの付き合いは、俺が初めて王都に来て以来だから4年近くになる。
オリアナさんもだが、俺のこっちの人生ではトップクラスに長い付き合いの人達だ。
リアーナから王都は時間だけを考えたら数日で行き来が可能だが、実際はそう簡単にはいかない。
電話やメールの様なお手軽手段も無いし……長生きして欲しいものだな。
別れを済ませて俺も馬車から降りて、待っていたテレサに【浮き玉】を渡す。
「お待たせ」
「もうよろしいのですか?」
「うん。じゃ、行こうか」
テレサに向かい両腕を伸ばすと、【浮き玉】に乗った彼女が俺を抱きかかえた。
そして、馬車に向かって目礼すると、反転して門に向かった。
もう慣れたもので、止められる事も無く王都の外に出ると、テレサは高度を上げて東に向かい加速を始めた。
「姫、王都から距離を取ったら一旦【隠れ家】をお願いします。バッグを放したいので」
「りょーかい。前も利用した森でいいかな?」
「はい。その後は一気に加速します。姫は無理をせず眠って貰って構いません」
「……大丈夫なの?」
人目もテレサの体力もだ。
王都にいる間は、生活スタイルは一般的なものだった。
「問題ありません。これで領地はダンジョンを持てるようになりますから、奥様達の発言力も増します。他所から何か言われてもはねのける事が出来ますよ」
「そか……そりゃーよかった」
……体調の事も聞いたんだけど、そっちは問題無さそうだな。
じゃー、このまま頑張ってもらうか!
◇
王都を発ってから3日目の昼前に、無事リアーナ領に入った。
と言っても、出発が夕方だったから、実質3日を切っている。
街道や街の上を通過するようなことは無かったが、それでも何人かに姿を見られたと思う。
もしかしたら今後リーゼルにこの事の問い合わせがあるかもしれないが、それも突っぱねる事が出来るようになる。
公爵と言う身分、騎士団と言う武力、そしてダンジョンと言う資源。
この3つが揃う事で、ようやくリアーナも領地として本格的にスタートできるようになるそうだ。
「見えてきましたね! 領都は門から入ります。高度を落としますよ!」
領地に入ってからもテレサは休憩を取らずに飛ばしに飛ばすこと数時間。
いよいよ領都が見えてきた。
「おねがーい!」
もう遠慮はいらないらしいし、目立つ事を気にせずにテレサに【祈り】と【ミラの祝福】を発動していたが、それでも長時間の高速移動を連日行っている。
声に少し疲れが混ざっているし、屋敷に着いたらゆっくり休んで欲しいものだ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・0枚




