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黒、クロ、くろ…。
ブーツをあちこち見てみるが、赤だけだ。
強いて言うならソール部分が黒に近い茶色だが、多分違う。
わざわざ色分けしていたくらいだし、あれも何か意味がありそうなんだけど…
「何をしているの?」
黒はどこだ?と探していたが、ちょっと変に見えたかもしれない。
「うん。赤はあるけど黒はどこかと思って」
「黒?…ああ」
それだけで伝わったのか、セリアーナはソファーから立ちあがり近づいてきた。
履いている自分じゃわからないけど、離れて見たらわかる様な所にあるんだろうか?
そのまま目の前まで来るなり、俺の服の裾を掴むなり真上に引き上げ足をペチペチと叩いている。
「⁉」
何でこのねーちゃん、人の服捲り上げるのに躊躇ないの…?
「お前、履いているじゃない」
視線を追ってみると俺の右足に向いている。
ブーツは履いているけど…。
「ぬ?」
スカートが膝下まであるから気づかなかったが、いつの間にか右足に太もも半ばまでの黒いタイツを履いている。
これか!
「あいたっ⁉」
体を前に折り、足を覗き込んでいるとペタペタタイツを触っていたセリアーナが抓ってきた。
「面白いわね、それ。お前の皮膚と一緒になっているわ」
マジか⁉
試しに触ってみるとひんやりとした触感が伝わってきた。
ゴムというよりエナメルに近い感じだろうか?
そして、タイツとの境目が無い。
引っ掻いても引っ張ってもずれたりせず、また、肌にダイレクトに刺激が伝わる。
【影の剣】の黒い爪はあくまで爪の上にあるだけだが、これは違う。
…これ脱げるよな?
「それは、元に戻るのかしら?」
ちょっと不安になってたところにさらに怖くなるようなことを言ってきおった…。
【影の剣】は外せば元に戻ったから、これもきっとそのはずだ。
ブーツを脱げば元に戻るはず。
このブーツデザイン凝ってる割に、紐もベルトも無いんですけど……。
「ほっ!」
ゴムの長靴を脱ぐ様に思いっきり引っ張ってみた。
「あ!脱げた!」
よかった…。
【緋蜂の針】はブーツから金属製のベルト状に戻っていた。
何だっけ?足に付けるやつ。
アンクレット?
少しごついけどそう思えば悪くないかな?
「使い方は後で試すとしてだけれど…どうしようかしらね?セラ。お前誰か踏みたい相手はいるかしら?」
「いないよ…」
なんつー聞き方すんだ。
「私やエレナが持つには少し政治的に問題があるし…」
セリアーナもだがエレナも貴族だ。
これがメダリア教の【断罪の長靴】と同じものなら、2人が持つには色々問題がありそうだ。
「…アレクは?」
「無いわね。お前見たいの?」
「いや…見たくは無いけどさ」
そういうもんなの?
「おじい様は何か案はありますか?」
「ふむ。まず手放すというのはありえんな。今の立場では無理だが、お前が領地に戻って以降それがあるという事は確かな力になる」
ミュラー伯爵家ではまだ家格が足りなくても、順当に行けば王子様と結婚するし大丈夫なのかな?
「緋蜂の寓話に準えるなら、セラに持たせておくのが良かろう。使う使わないは別にしてどこか機会があれば人前で使わせておくといい」
「緋蜂の寓話って何?」
「魔王を刺した緋色の蜂よ。お前の持っている本にも載っていたはずだけれど…読んでいないの?」
「……えへ」
道中はずっとセリアーナの物語集を読んでいたからな~…。
「…そう。大陸全土で知られているけれど、教会の説法集にあるのよ。魔王を為政者に、緋蜂を教会に例えて、自分たちを権力者を正す者にしたいのでしょう。【断罪の長靴】と【緋蜂の針】が同じものならきっとそこから取ったのね」
へー…ってか【緋蜂の針】ってどえらいもんじゃなかろうか…。
国宝とか神器って扱いだし…。
それ俺が持つの?
殺されない?
セラ・【隠れ家】【祈り】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・9枚
エレナ・【】・【緑の牙】・0枚
アレク・【】・【赤の盾】・0枚




