02
ドゥロロロロロロロ
「⁉」
ため息をつきながら、聖貨を掲げた瞬間、急にドラムロールが鳴り始めた。
そして、リールが物凄い勢いでぶん回っている。
目の前には院長の机と、その後ろの女神だか何かの像と壁だ。
思わず両方の目を擦ってみたが、変わらない。
ただ、リールが回転している事だけはわかる。
「…脳か?」
何がとは言わないけれど、脳な気がした。
ドゥロロロ…
手早く掃除を終え、いつもなら本を読んでいるが流石にそれどころではない。
いつの間にか、手に持っていた聖貨も消えてしまっている。
驚いて落とした可能性も考え、部屋中を探してみたが、無かった…。
ドゥロロロ…
そしてこのドラムロール。
鬱陶しいし、いい加減止まって欲しいけれどレバーもボタンも無い。
どう止めればいいんだろうか…?
聖貨が消えこの現象が起こったって事は、恐らく、聖貨を消費するガチャ的なものだと思う。
そうでなきゃ困る。
「ストップ‼」
とりあえず気合を入れて叫んでみた。
「お!」
気合が効いたのか、回転が徐々に緩やかになっていき、そしてついに止まった。
パンパカ、ファンファーレが鳴っているし、きっと何かいいものが出てくれるはず。
「…は?」
頭の中に文字が浮かび上がった。
その内容は【隠れ家】
◇
この世界には魔法がある。
以前教会の治療院という、病院のような所に手伝いで駆り出されたことがある。
そこで掃除やら洗濯やらをやっていた時、運ばれてきた傷だらけの男が、神父が杖を掲げながら何やら唱えたと思ったら、徐々に傷がふさがっていった。
神聖魔法というそうだが、要は回復魔法だ。
もちろん回復魔法があるってことは、攻撃魔法などもある。
何でも、効果は違うものの魔力を行使するという点は同じで、基本は一緒らしい。
そして、生まれつき使える者もいれば、後天的に身に着ける者もいるそうだ。
上がったね。
テンションが。
それはもう、冒険者や魔物の存在を知った時以上に。
以来こっそりと、「波~~~!」だとか「~デイン!」だとかを練習していたが、俺に才能が無いのか、何かが間違っているのか、何も起こらず、いつしか断念していた。
だが、突如手にした聖貨の存在で、一気にその時の気持ちが沸き起こったのだが…。
【隠れ家】
まさかの不動産だ。
確かに欲しいとかは考えていたが、いきなりそんなの手にしても困るし、そもそもどこにあるのかもわからない。
あの後あまりの事態に呆然とし、気づいたらいつの間にやら夜。
いつも寝ている大部屋の俺の指定席の隅っこに寝っ転がっていた。
明かりなど無く、窓はあっても今夜は新月。
今の気分を表すように真っ暗だ。
上手くいくかはともかく、それでも明るい未来の想像を楽しめたが、さすがにもう無理だ。
さようなら、素敵な未来。
扉を開けば、真っ暗な人生。
そんな下らないフレーズを考えていたからか、真っ暗なのに何かドアのようなものが見えた気がしたので、折角なので開けてみようと…
「…あ?」
冷たい木の床ではなく、やっぱり冷たいがつるつるしたタイルの上に座っていた。
「ここは…⁉」
今俺のいる場所。
それは、孤児院でもなく、前世の実家でもなく、大学生の頃のワンルームでもなく、新入社員の頃の独身寮でもなく、その後何度か引っ越した部屋でも、独立時に事務所も兼ねた一軒家でもなく、事務所は別に設け、利便性で選んだ最後の住居である1LDK、そこの玄関だ。
何年も住んでいたんだ。たとえ明かりがついていなくても、ここから見える部屋の様子を見間違えるわけない。
え…何?隠れ家ってこういうこと?




