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昼を少し回った頃、乳母がいるため寝室ではなくて応接室でだが、何をするという訳でも無く、お茶を飲みつつお喋りしつつと、過ごしていた。
「……来たわね」
だが、セリアーナは唐突にそう呟くと、ソファーから立ちあがった。
俺は、昼食後で腹も膨れてやや微睡んでいたから、小さい声だという事もあって、危うく聞き逃しそうになった。
何事だろうかと、顔を上げてそちらを見ると、セリアーナはなにやら深刻な表情を浮かべている。
……誰が来たんだろう?
エレナとテレサを見るが、彼女達も事態が把握できていないようで、立ち上がりはしたものの、動けないでいる。
「誰が来たの?」
「子供よ」
……こども?
「っ!? すぐに手配します。エレナ、ここは任せます」
テレサは、驚くエレナに指示を出すと、足早に部屋を出て行った。
エレナも我に返ったようで、同じく急いで寝室に向かっていったが……一体何が?
さらに、普段はセリアーナに直接声をかける様な事をしない乳母も、なにやら気遣っているし……あ!
「こどもか!」
「……そう言っているでしょう?」
ようやく思い当たった俺に、呆れた様な目をするセリアーナ。
確かにボーっとしていたから、反応が遅れたが、それにしても言葉が足りなさすぎないか?
とは言え……えらいこっちゃ!
◇
パタパタと駆け寄る俺に気付き、ドアの前に立つ兵士は驚いた顔をしている。
彼が驚いているのは、俺が走るような事態が起きた事か、あるいはただ単に自分の足で移動している事か、どっちだろう?
【浮き玉】はセリアーナの移動の補助にと貸して来たからな……。
自分の足で移動する……ましてや駆け足の俺なんて超レアだぜ?
「副長!? 何か起きたんですか? いつもの恩恵品は?」
ドアの前まで来ると、足を止めて息の乱れを直す。
走るのなんて久しぶりだったな……。
「ふぅ……。あれはセリア様に貸してる。旦那様に報告があるから、中に入るよ?」
「あ、はい。どうぞ……」
「お邪魔しまーす」
中に入ると、いつものメンバーがいつものように仕事をしている。
平常運転だ。
「セラ君か。どうかしたのかい? いつもとは少し様子が違うようだが……」
まぁ、浮いてないもんな……でも、そんなことよりもだ。
「ついさっき、セリア様が子供が生まれそうだって言って、部屋に向かいました!」
その報告に、リーゼルだけでなく部屋の皆も「おおっ!」と歓声を上げた。
妊娠して以来、セリアーナはこちらには顔を出していないし、リーゼルは1日1回は談話室に足を運んでいたから、ある程度状況は把握できているが、情報はそこでストップしていたから、彼等には伝わっていない。
まだ生まれたわけじゃ無いが、それでも朗報だろう。
「奥様の元へ行かれますか?」
「いや、すぐに生まれるわけじゃ無いし、フィオーラ達も付いているんだろう? 僕はまだ仕事も残っているし……セラ君。代わりに君が行って、生まれたらまた伝えに来てくれるかい?」
部屋の様子が落ち着くのを待ってから、オーギュストがリーゼルにどうするかを聞くが、リーゼルは部屋に残るようだ。
まぁ、エレナの時も4‐5時間程かかっていた。
セリアーナは双子だし、もっとかかるかもしれない。
その間、彼が拘束されるのもな……同じ屋敷内にいるんだし、生まれてからでもいいか。
「りょーかい!」
彼の言葉に頷いた。
◇
「よっ……ほっ……」
本館の1階に繋がる階段を、手すりを掴みながら気を付けて下りていく。
久しぶりに利用するが、ここの階段は1段1段が高い上に幅も広く、普通の靴ならともかく、サンダル履きのチビには厳しい造りだ。
妊婦さんにも厳しかろうし、セリアーナに【浮き玉】を貸したのは正解だった。
「抱き上げましょうか?」
前を降りていくミオが提案してくるが、首を横に振り断った。
オーギュストは、女手があった方がいいかもしれないと言って、彼女をついて来させたが、まさかこの為じゃ無いよな……?
ふぬぬ……と唸りながらも、なんとか階段を下りきった。
「お待たせ……。よし、行こう」
ふぅ、と一息ついて、再び歩き始める。
これだけの距離を歩くのは久しぶりだな……わかっちゃいたが、デカい屋敷だ……。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




