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「…………なに?」
恨めしそうなセリアーナの視線に、思わず反応してしまった。
理由はわかっているから、敢えて無視していたが……、気になってしょうがない。
「子供生まれるまで我慢してね」
さらに言葉を続けると、答える代わりに溜息を一つ吐いた。
本人もわかっているんだろうが……ここは我慢してもらいたい。
何も起こらないかもしれないが、何かあったら俺がヤバくなるんだ。
「……セリア様、申し訳ありません」
俺の手が顔に被さっているからか、ややくぐもった声で、エレナがそう言った。
「私が言い始めた事だし、貴方が謝罪する事では無いわ……ふぅ……」
また一つ溜息を吐いた。
今エレナは、俺から【ミラの祝福】の施療を受けている。
それも、妊娠中のように顔と腕だけの簡易版では無くて、足先から始めるフルセットバージョンだ。
妊娠期間中も、チマチマ施療をしていたが、アレは俺も結構気を使うから、時間はかかるがこっちの方が楽でいい。
夜になって、エレナが子供を乳母に預けてからだから、もう2時間くらいかな?
特に時間を計ったりせずにやっているから、正確にはわからないが、それくらいだと思う。
寝室のエレナのベッドで行っているが、最初はセリアーナは普通にお喋りをしていたが、徐々に口数が減ってきて、最終的に今の不貞腐れた状態になってしまった。
セリアーナも言ったように、エレナに施療を促したのはセリアーナ自身だ。
身体が軽くなったのだから、スッキリしたらどうか? と。
だが、いざ目の前で見ているとフラストレーションがたまって来たんだろう。
「奥様、姫の施療は我慢してもらいますが、代わりに私が足や肩でも揉みましょうか?」
「そうね……お願いするわ」
代わりにテレサがマッサージを申し出ている。
俺もたまにやって貰っているが、エステというよりは整体寄りだが、中々上手いと思う。
セリアーナの出産まで後、2–3週間程だろうか?
それまではテレサに任せよう……。
そう決め、再びエレナの施療に集中した。
◇
それから2週間程が経ち、もう秋の3月も終わり間近だ。
子供が寝泊まりする部屋は、セリアーナの応接室の一つ隣で、寝室からは二部屋離れていることになる。
元々この階層で、大声で喚くような者はいなかったから特に気にしたことは無かったが、寝室まで子供の泣き声が聞こえてくることは無かった。
俺も子供部屋に何度かお邪魔したことがあったが、元気に泣いていた。
夜だけ泣かないってことは無いだろうし、よほど防音性に優れているんだろう。
俺は就寝時、寝室内で発動した【隠れ家】に入っているが、セリアーナ達が妊娠して以来、念の為【隠れ家】内のモニターを点けたまま寝ている。
それなら、中に呼びかけられなくても、外の様子がわかるからだ。
だから、泣き声が聞こえてきたら中にも聞こえてくるし、多少は睡眠不足になる事も覚悟していたのだが……その心配は全くの無駄だった。
いつも通り昼近くまでぐっすりだった。
セリアーナ達もよく眠れているだろうが、乳母さんはお疲れかもしれない。
「どうなんだろうね?」
何となく気になり、そのことを聞いてみた。
今はもう夜で、乳母とは子供を預けて別れている。
俺達は、寝室でセリアーナは頭部の施療を、エレナはソファーでお茶を、とリラックス中だ。
それに比べて、セリアーナの子が生まれたら乳母は後二人増えるが、今は一人だ。
エレナの親族とは言え見知らぬ土地にやって来て、自分も乳児を抱えての事。
すぐ側に夫と上の子がいるが、気軽に会う事も難しい状況だし、そこら辺のケアはどうなっているんだろう?
もちろんその事を承知で働きに来ているんだろうけれど……。
「急に妙なことを聞くわね。どうかしたの?」
「ん? いや、乳母さんはお疲れじゃないのかな? って思って」
エレナはカップを置いて、しばし考えたかと思うと口を開いた。
「夫の方はわからないけれど、彼女の方はむしろ待遇が良いから、今までより楽だと言っていたよ。屋敷の使用人が彼女の世話もしているからね」
「そーなんだ?」
確かに家事の一切は屋敷の使用人が行っているし、子供の事だけに専念できるし、こっちの方が楽なのかな?
「子供を預けるのだから、待遇に不満を持たれるような真似はしないわ。それに、推薦側が事前に為人は調べているでしょうしね。楽な仕事とは言わないけれど、相応の見返りは与えているわ」
と、セリアーナは笑っている。
「なるほどねー……」
まぁ、大変な仕事ではあっても、今までより生活が楽になるし報酬もしっかりしている。
それなら遣り甲斐があるのかな?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




