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部屋の前で待つ事数分。
廊下の先から、こちらに向かって駆け寄ってくる女性の姿が目に入った。
出産用に用意している部屋は、南館の1階のちょうど真ん中あたりにある。
セリアーナの部屋には、そこからぐるりと結構な距離を回って来なければいけない。
その割に随分早いなと思ったが……走ってきたのか。
使用人の制服じゃ無いし、もしかしたら警備の兵士かな?
こっちには女性しか入れないからな。
「セラ副長!」
そして、部屋の前の俺に気付いた様で、大きな声で呼んできた。
「……あぁ」
副長呼びをするって事は、やっぱりか。
そのまま俺の前まで来るが、息が切れているのがわかる。
「大丈夫?」
「はい! 大丈夫です! エレナ様は無事出産されました!」
彼女に声をかけると、力強く答えた。
なんでこんなに元気なんだろうか……と思うが、それは置いておいて、報告を続けてもらった。
生まれた子は男の子で、母子ともに問題無しだとか。
念の為フィオーラにも来てもらっていたが、若い健康な女性だ。
いらん心配だったか。
ついでに何でまたそんなに張り切っているのかと、それとなく訊ねてみたのだが、屋敷の中での仕事が初めてだったので、ついついテンションが上がってしまったんだとか……。
「……屋敷の中は色んな人がいるから、走るのは止めた方がいいかな? オレもいつもゆっくり飛んでるしね?」
「っ!? そうですね。気を付けます!」
「うん……その方がいいよ。中のセリア様にはオレの方から伝えておくね。ご苦労様」
「はい! よろしくお願いします。それではっ!」
そう言うと、回れ右をして、ズンズンと大股の早足で去って行った。
確かに走ってはいないが……。
「仕事のモチベが高いのは良い事かな……」
俺は、小さくなっていく背中を見てそう頷いた。
◇
部屋に戻りセリアーナ達に無事生まれた事を伝えたが、彼女の加護で屋敷の中の人間の動きは把握できている。
母子ともに存在している事や、向こうで大きな動きが無い事から、察したんだろう。
多少ホッとはしたようだったが、特に大きな喜びを見せたりはしなかった。
「エレナなら問題は無かったでしょう。何も心配はしていなかったわ」
とか言っている。
俺も人のことは言えなかったし、少し前の狼狽えっぷりは忘れてあげよう。
「そういえば……」
今度は薬草茶ではなく普通のお茶をテレサに淹れてもらい、それを飲んでいると、何かを思い出したようにテレサが口を開いた。
「先程、姫が子供の相手が慣れているとかおっしゃっていましたが、そう言った経験があるのですか? 確か兄弟姉妹はいなかったと聞いていますが……」
……そういえばそんな会話をしたような記憶が薄っすらと。
フっと、隣に座るセリアーナに目を向けると、視線を避ける様に横を向いている。
これは覚えているな……そして、口を滑らせた自覚があるな。
セリアーナは、観念したのか、ふぅ、と一つ息を吐き、口を開いた。
「その経歴はお父様に用意させた物よ。本当はこの街の孤児院出身ね。その事を知っているのは、私とエレナ、アレク、お父様とその側近だけよ。貴方も他には漏らさないで頂戴」
「なるほど……【隠れ家】を使って、この街から離れたのですね。北東部を妙に避けていると思いましたが……納得できました」
あっさり言ってしまったセリアーナもセリアーナだが、テレサもすんなり吞み込んでしまった。
孤児院からの脱走はともかく、戸籍改竄とか結構大事な気もするけど、お貴族様にはよくある事なのかな?
展開の速さについて行けずポカンとしている俺をよそに、説明を続けている。
聖貨の下りはテレサも少々驚いていたが、どうやら平民の子供の過去はそこまで重要じゃ無いようだ。
まぁ、孤児院出身の子供と、借金苦で親に捨てられた子供と、他人から見たらそんなに差は無い気がするしな。
セリアーナのもとに来てからもう4年程になるが、経歴はそれで十分なんだろう。
「……わかりました。教会もですが、あの周辺の者との接触も、怪しまれない様に上手くあしらいましょう」
「ええ。大分影響力は削いでいるし、今更どうこうできるとは思えないけれど……。セラ。お前もいいわね」
「あ、はい……」
何かよくわからんが、今後の街へのお出かけはテレサがマネジメントするようだ。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




