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鬱陶しかった雨季も終わり、秋の3月になった。
秋の3月は、雨季の間の消耗や損傷の確認に補修に、冬の間の備蓄等、やる事が多く慌ただしい月だ。
魔境に接するここ、リアーナでも、騎士団、冒険者、街の住民と、皆忙しそうにしている。
当然領主の屋敷もそうなのだが、今日は屋敷に流れている空気が少々違う。
エレナの子が生まれそうになったのだ。
予定日的なものから少し遅れていたそうだが、早産よりはいいのかな?
本人は特に慌てていなかったし、しっかり検査したりするわけでも無い。
まぁ、この世界の8ヶ月くらいで出産ってのも、俺の拙い妊娠知識から考えたら随分早いんだが……何だかんだ皆それで生まれて来ているしな……。
産婆さんに、念の為のフィオーラもスタンバっているし、心配は無いだろう。
俺に何かできるわけでも無いし、ここは鷹揚に構えて吉報を待てばいい。
「……セラ、落ち着いたらどうなの?」
「? いつも通りだよ?」
どこか呆れた様なセリアーナの声に言い返す。
俺はいつも通りクールなのに……。
「姫……逆さまになっていますよ?」
「ぬ」
ソファーに座っていたテレサが立ち上がり、俺の頭に手を当てると、くるりと半回転させた。
目を閉じてクルクル回っていたらいつの間にか逆さまになっていたようだ。
セリアーナが言うように、ほんの少しだけれど、落ち着きを失っているのかもしれないな。
「全く……。お前は子供の相手は慣れているのでしょう? そんな事でどうするの?」
「そりゃ慣れてはいるけど、赤ん坊とか、ましてや出産の事とかはまた別物でしょ」
「似た様なものでしょう……」
全然似てないと思う。
やっぱりこのねーちゃんも動揺しているんだな。
「お二人とも、何か飲んで落ち着かれてはどうですか? 出産とは時間がかかるものですし、今からそんな事では持ちませんよ?」
テレサは何かが気になったのか、怪訝な顔をしながらお茶の用意を始めた。
「……そうね。頂くわ。お前も【浮き玉】から降りて来なさい」
そう言うと、セリアーナは自分の隣を指している。
「はーい……よいしょ」
【浮き玉】から降りて、セリアーナの隣に座った。
「ふぅ……」
一息つくと、薬草のような香りが鼻をついた。
「テレサ、それは? いつものとは違うね」
「鎮静効果がある薬草茶です。妊婦が飲んでも問題無いそうですよ」
何のお茶なのか聞くと、そう返ってきた。
ハーブは妊婦さんに悪いって聞いた事あるが、何でもかんでもって訳じゃ無いのか。
「……悪いわね」
「フィオーラ殿も付いていますし、何の心配もいりませんよ。……どうぞ」
お茶を持って来たテレサは、それぞれの前に置くと自分も向かいに座った。
目の前に置かれたカップには薄い緑色の液体が注がれている。
……香りは悪くないがちょっと飲むのに勇気がいる色だ。
手を伸ばすのに躊躇っている俺と違い、セリアーナは一切躊躇うことなくカップを手に取り、口にやった。
「……美味しい?」
セリアーナの顔を見ると、眉をしかめている。
……美味しくは無さそうだな。
「苦いわね……お前も飲みなさい」
「慣れると悪くありませんよ」
テレサは特に表情を変えることなく飲んでいる。
ハーブティーというよりは、緑茶とかそういう感じなのかな?
あまり苦いのは得意では無いが、折角淹れてくれたんだし飲んでみるか……。
「……ぐっ!? ……にがい」
少量だが飲んでみたが……これは緑茶じゃなくて青汁だ。
◇
お茶の効果か、あるいは単純に苦さで頭がリフレッシュしたからかはわからないが、大分落ち着いたと思う。
やっぱりさっきまでの俺達は軽いパニックになっていたようだ。
エレナは昼過ぎにいきなり、産まれるかもしれませんとか言って、そのまま出産用に用意した部屋に向かっていった。
本人は良くても、側にいた俺達の心の準備は出来ていなかったからな……びっくりしたもんだ。
「あら?」
「ん? どうかした?」
隣に座り本を読んでいたセリアーナが、何かに気付いた様だ。
「ええ……。エレナ達の部屋の前にいたものが1人こちらに来ているわね。他に動きは無いし、数に変わりは無い…………生まれたのね」
「おぉ……そりゃー良かった」
大丈夫だろうとは思っていたが、改めてホッとした。
「もうすぐ部屋の前に来るから、お前が報告を受けて頂戴」
「はいよー」
足元に転がしていた【浮き玉】を、足で手繰り寄せて乗っかり、部屋の外に向かった。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・4枚




