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狩りから戻り、シャワーを浴びて昼食をとり、それからセリアーナの部屋に向かった。
「おや?」
「どうかしましたか?」
ドアを開けに来たテレサとともにセリアーナの寝室に入ると、目に入る光景に少し違和感があった。
「ん?うん……なんか派手な封筒が……」
部屋の中では、ソファーにかけて、セリアーナが手紙を読みながらエレナと何か相談をしている。
テーブルの上には、パッと見でも20通以上重ねて置かれている。
それ自体はよくある事だが……いつもと違い、置かれているのは豪華な装飾の封筒だ。
セリアーナだけでなく、領主のリーゼルに届く手紙も、仕事がらみの場合は、質は良くても割と地味な物だったりする。
届けに来る者の身分が通常よりも高かったりはするが、王家を始めとした他領の領主等の、高貴な相手の場合もそうだ。
実にお役所的。
てことは、あの束は全部プライベートな物だろう。
「お帰りなさい。お前も読む?」
手紙から顔を上げたセリアーナが、手にしたそれを俺に向けて見せてきた。
何となく疲れているような声をしているが、良くない報せなんだろうか?
「……オレが見てもいいやつなの?」
セリアーナは領主夫人だし、彼女宛の手紙は日々送られて来る。
内容によっては一人で読むだけじゃなくて、他の者にも読ませて意見を求めたりもしている。
滅多に無いが、俺も意見を求められたりもする。
ただ、それは仕事がらみの内容の場合で、プライベートな手紙の場合は、一度も無かった。
「ええ……。なんだかもう誰でもよく思えてきたわ……」
うんざりした様なセリアーナに、その様子を見て苦笑しているエレナ。
「どうぞ」
テレサが受け取り、俺に渡してきた。
折り畳みもせずに渡しているが、テレサが見るのも構わないようだ。
どれどれ……と内容を読んでみるが、時候の挨拶に始まり、街の様子がどうのこうのと書かれている。
……これ領内の代官からの手紙か。
しかしまた、仕事でもないのになんでセリアーナに? と読み進めていくと、2枚目でようやく本題に辿り着いた。
「……乳母かぁ」
要は、今度産まれてくるセリアーナの子供達の乳母さんの推薦状だ。
◇
乳母……、母親の代わりに赤子に乳を与える女性の事で、場合によってはその後の教育なども任されることがある女性。
今生でも、もちろん前世でも俺には縁の無かった存在だが、この世界……全体かはわからないが、少なくともこの大陸では現役で、主に貴族女性や、裕福な……例えば商家の夫人等が外部から雇ったりする。
もちろん必ずしも雇う必要はなく、セリアーナの母のミネアさんや、フローラさんは自分で育てたそうだ。
ただ、セリアーナは雇うつもりらしい。
今までセリアーナは自身の妊娠の事は公にしていなかった。
だが、魔王種の討伐等から勘の良い者は察する事が出来る様だったが、この度、リーゼルやゼルキスの実家経由でしっかり公表した……らしい。
その結果、こういう風に推薦状が送られて来るようになったそうだ。
「エレナも乳母さん雇うんだね」
手紙を読んでいると、セリアーナだけでなく、エレナの分もあった。
ただでさえセリアーナは双子だし、それにエレナの分も加わって、随分大勢の候補が集まっている。
流通事情から、手紙であろうとどうしてもある程度まとまって届く。
そりゃー、多くもなるか。
「私も出産は初めてだしね……。実家なら母や身内に頼れるけれど、ここでは難しいから、慣れた者に任せようと思うんだ。アレクも賛成しているよ」
「なるほどー……それもそうだね」
面倒見がいいし、何となくエレナは自分で育てる様な気がしていたが、彼女の言う事を聞くと納得できた。
この1年でそれなりに街の人員も揃って来たが、彼女達の相談に乗れるような貴族の女性ともなると、まだまだだ。
それなら最初から任せる方が安心できるか。
それにしても……。
うんざりしたような顔をしているセリアーナを見る。
ざっと流し見しただけでも同じような内容の事ばかり書かれているし、読んでいて飽きてくるのはわかるが、それでもこんな風になっているのは珍しい。
……ストレスかな?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・8枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




