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「もう少し荒らすか……」
ジグハルトはそう呟くと、いつもの熱線ではなくて風の塊のような魔法を辺りの木に向けて数度放った。
直撃した木はへし折れ、生い茂る草は余波でなぎ倒されてと、ちょっとした激戦跡が出来上がっている。
自分でもその出来に満足したようで、自慢げにこちらを見てきた。
「木を蹴って逃げようとしたのを、お前が上から叩き落として、俺が止めってところだな。いい出来だろう?」
「激戦跡だね……。ちょっと強さを勘違いされないかな?」
「短期間で2体となると、魔王種の脅威を軽く見る者も出てくるかもしれないだろう? 冒険者なら自業自得だが、兵士の中にそういった者が出てくると、領民に被害が出る。折角だから引き締めるのに利用させてもらうさ」
「おー……なんかセリア様っぽいこと考えてるんだね……」
というよりも、セリアーナの案じゃないか?
それを聞いたジグハルトはニヤリと笑っているし、当たりっぽいな。
「さあ、さっさと片付けちまおう」
ジグハルトは腰に付けたポーチから取り出した薬品を取り出すと、遺骸に数滴落とした。
そして更に水をかけると、パキパキと小さな音を立てながら表面が凍り付いて行った。
「ぉぉぉ……」
今かけたものは、水と反応して凍らせる薬品で、凍結液という。
完全に凍り付くわけじゃ無いが、数時間は極低温になる効果があるそうだ。
似た様な物で、水と反応して高熱を発する燃焼液という物がある。
そちらは、凍結した水路を溶かすのに俺も使った事があるが、使う素材の差から、こちらの方が値段は高いらしい。
だからこそ、高価な素材を劣化させずに運びたい等の、ここぞといった時に使用される。
サイモドキの運搬の時にも大量に使われた。
「頭も一緒でいいのかな?」
「ああ、そこに置いてくれ」
凍結したのを確認すると、ジグハルトは遺骸をシートで包み始めた。
頭部は切断されているから、それくらいなら俺でも持って行けるが、一緒にする様だ。
そして、手際よくまとめたかと思うと、そのまま担ぎ上げた。
血やいくつか内臓を抜いているとはいえ、まだ100キロ近くあるはずなのに……。
「よし、行くぞ」
すげーな……と呆けていると、そのまま森の外に向かっていった。
重量物を担いでいるのに、足取りは全くブレていない。
普段何気なく蹴ったり肩に乗ったりしていたが、改めてみると、このおっさんやっぱ身体能力も高いんだな。
◇
「ウマ君重くないのかな?」
並走しながらジグハルトに声をかける。
リアーナの領都目指して走っているが、走るペースは結構速めで、この分だと1時間もかからずに領都に到着しそうだ。
一の森で倒した魔物を巡回の兵に運んでもらうことがあるが、その時は周辺の木を切って橇のような物を作り、それに乗せて牽いている。
だが今は、鞍の後ろに積んでいるだけだ。
街道を走るから、急造の物じゃ道を荒らしてしまう為、このように運ぼうってのは決めていた。
競走馬に比べたら頑丈な体つきだが……いざ、この重そうな物を積んで走っている姿を見ると……大丈夫なんだろうか?
「ソレは精々大人二人分位だろう?こいつは重装備の騎士を乗せて走る様な馬だし、領都までなら余裕だろう」
鞍の後ろを指しながらジグハルトがそう言った。
「ほーう」
俺は着た事が無いが、金属製の鎧とか相当重いそうだし、言われてみたらそんな気がする。
「馬車を出せるんならそれが一番だったが、俺が出てきたのは薬草採集の為だしな……頑張ってもらうさ。何なら【祈り】でもかけてみるか?もしかしたら効果があるかもしれないぞ」
「ぬ! そうだね、やってみよう!」
俺は基本的に【浮き玉】で移動しているし、それ以外だと馬車に乗っているから、騎乗している相手と一緒に何かをするって経験はほとんどない。
馬を相手にかけるか……今まで考えた事も無かったな。
ジグハルトは冗談めかした口調だったが、ちょっと面白そうだ。
かかってもかからなくても、悪くはならないだろうし、試してみよう。
「ほっ!」
馬も意識して【祈り】を発動してみた。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・6枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




