360
離脱したオオカミの魔王種を追跡する事十数分。
いやー……速い速い。
俺の知る前世のオオカミも、長距離を走り続ける事が出来るが、それどころじゃない。
流石は魔王種と言ったところだろうか。
走る速さもさることながら、谷を飛び越え、川を飛び越え……【浮き玉】で上から追い続けていたのに、中々追いつけなかった。
それでも、ようやく追いつくことに成功したのだが……。
「あらー……こりゃマズいかもしれんね」
いつの間にやら、山の麓にまで行きついてしまっている。
ここから先はしばらく平地の草原地帯が続き、さらに小さな村がいくつかある。
どの村にも立ち寄ったことは無いが、少なくともこのオオカミと戦えるような戦力は無いはずだ。
「ほっ……と。前方に人気は無し……この時間じゃ無理も無いか。さっきの彼等も追ってくる様子は無いし……」
追跡しながら高度を上げ、周囲を探ってみるが、魔物や通常の獣の気配はあるが、人間は誰もいない。
こいつを追い詰めていた彼等も、結局追って来ていない。
まぁ……その気があっても、このペースじゃ追いつけなかったか。
視線を下におろすと、今まさにオオカミが山を抜け、草原に出たところだ。
進行方向こそぶれることは無かったが、それでも蛇行していた山中と違いここからは一気に加速するだろう。
再び視線を上げて前を見ると、数キロ先にだが村が見えた。
そこを目指しているのか、真っ直ぐ草原を突っ切っている。
この速度ならもう数分で到達するはずだ。
月明かりだけで少々見えづらくはあるが、ここからでも村の内部がわずかに見える。
村はいたって静かなもので、魔王種が接近している事に気付いた様子は無い。
このまま村に突っ込んでしまえば、まず全滅は避けられないだろうし、それは流石に気分が悪い。
……やってみるか?
◇
やると決めたなら、まずは態勢を整えねば!
【浮き玉】を加速し、地上を走るオオカミを追い抜いた。
しかし、頭上を追い抜き眼前に浮いているのに、全く速度を緩める気配が無い。
わかっちゃいたが、このクラスの魔物だと俺程度は一顧だにする価値も無いんだろう。
フフフ……いぬっころめ。
本気を出されたらちょっとマズかったが、相手が舐めプしてくるなら、たとえ魔王種だろうと俺でも戦える!
「ふらっしゅ!」
【祈り】を発動し、次いで鼻先目がけて魔法を撃った。
ダメージを与える類のものなら効かないかもしれないが、目を使う生物である以上、どんなに強い相手でも関係無い……はずだ。
「むっ!」
ギャンと一鳴きしたものの、足を止める事は叶わなかった。
だが、速度は落ちた。
先程までの半分程度の速度で俺のすぐ下を通り抜けていく。
先程までの速度じゃ、ちょいと自信は無かったが、この速度ならいける。
後方から一気に追いつき、走るオオカミの真上で【影の剣】を伸ばす。
「はっ!」
そして、その位置で横に一回転し、斬りつけた。
魔王種じゃないが、クマには通じたんだ。
同じくらいの強さのこいつにも通じるはず。
「皆!やってしま……え……?」
振り抜いた指先に手ごたえを感じ、さらに追撃を三匹に命じようとしたのだが……俺の下を走っていたオオカミは十数メートル走ったかと思うと崩れ落ちてしまった。
そのまま地面を慣性に従って滑っていったかと思うと、地面の起伏か何かに引っかかったのか大きく跳ね上がったが、その体には頭部が無かった。
「ぬあっ!?」
そして、空中で二回転三回転したかと思うと、ぐしゃっと落下し動かなくなった……。
「……あれぇ?お……おかしいな……」
これ、俺が倒したんだよな……?
「お?」
左手に、今まで無かった何か固い感触が。
聖貨だ。
これがあるって事は、やっぱり倒した様だ。
【影の剣】でダメージを与えて、どれくらい効果があるかわからないが、アカメ達で追撃を加えて気を引いて、後は適当に攻撃をしていく。
倒せるならそれが一番だし、倒せないにしてもとりあえず村に向かわせるのを阻止できれば良かった。
だが……倒したっぽいな?
本当に倒したよな?
実は第二形態とか無いよな?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・6枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




