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城の門まで数百メートルといったところに、目的地のセルベル家の屋敷はある。
ミュラー家の王都屋敷から、数軒離れた所にあって、割とご近所さんだ。
それでも、その短い距離を馬車で移動している。
「ぉぉぉー……」
門から敷地内に入ると、高い壁に阻まれて見えていなかった屋敷の全容が見えてきた。
広さ、大きさはミュラー家の王都屋敷と大差ないが、こちらは全体的に白い。
ミュラー家の屋敷は領都と王都で、規模こそ違ったが、雰囲気は似ていた。
こちらもそうなのかもしれない。
「男爵も、奥方のリーリア殿も厳格な方では無い。とは言え、あまり無礼な真似はせぬようにな」
「その【浮き玉】は仕方ありませんが、武器になり得る恩恵品は外していますね?」
「うん、だいじょーぶ」
さて、今日滞在するセルベル家にやって来たわけだが、じーさんとオリアナさんも一緒だ。
さらに二人付きの執事と侍女と共に、彼等も今日は一緒に宿泊する。
一応名目は、明日素材を献上する際にじーさん達も同行するし、その事についての打ち合わせだろうけれど……実際は俺のフォロー役としてだろう。
リーゼルのお墨付きがあるとはいえ、俺と顔を合わせるのは初めてだしな。
初対面の貴族宅に、いきなりお泊りはちょいとヘビーだ。
少々申し訳ないが、付き合ってもらおう。
「降りるぞ」
馬車が止まりドアが開けられると、じーさんを先頭に降りて行った。
俺も荷物を持って後に続く。
【浮き玉】に乗り、浮いている俺を見て、一瞬ギョッとしたが、何事もなかったかのように荷物を受け取り、屋敷の中に案内された。
◇
メノア領を治めるセルベル家は、領内に山川農地を持つ王国北部の有力伯爵家で、家も領地も大きな力を持つが、王家とは直接かかわりが無い。
しかし、次期当主の長男であるジェイク男爵が、王国西部に実家があり西部に権力基盤を持つ第一王妃の妹と結婚し、間接的に王家と繋がりを持っている。
ちなみに、リーゼルは東部に、エリーシャは南部に、王太子でもある第一王子は王都圏の有力貴族と結婚して……と。
今の王家は東西南北中央と国内全方位に強い影響力を持っている。
リーゼルが第四王子ってことは、上に他にも二人王子がいるんだろうが、彼等の事は俺の耳には何も入って来ない。
ってことは、良くも悪くも無いって事なのかもしれない。
王家のお家事情は分からないが、この分じゃ第一王妃様は安泰だろう。
つまり、ウチも政治面での不安は無いって事だ。
梯子外されたり、背中から撃たれたりを注意しながらってのはしんどいだろうからな。
「ぬふふ……」
「どうかしたのか?」
と、漏れた声が聞こえたのか、じーさんがこちらを見ている。
屋敷に入った後は、主のジェイクさんとの挨拶もそこそこに談話室に通された。
部屋の中には、先に到着していた騎士団と城のお偉いさんも待っていた。
そして、彼らを交えて明日の打ち合わせが始まった。
俺のやる事は、じーさん達の後ろで跪いておくことだし、聞き流していても問題無い。
いや、問題無いってことは無いかもしれないが、それでも、どの部屋でどの役職の人間に挨拶して、それから謁見の間に移って誰々の言葉の後に何々をして……とか、聞いても仕方が無い。
……やっぱり問題無いな。
「あ、なんでもないよー」
慌てて応える。
「そうか……。ではセラ、そろそろソレを……」
「はいよ」
足元に置いたケースを持ち上げ、ドンっとテーブルに置いて中を見せると、女性陣は興味無さそうだが、「おおっ……」とじーさんも含めるおっさん達は息を呑んだ。
ケースの中身は、献上する魔王種の素材、サイモドキの小角だ。
ここでは打ち合わせもそうだが、これの引き渡しも行う事になっている。
てっきり献上するその場で初お披露目をするのかと思っていたが、魔王種等の強力な魔物の素材は、真贋や危険物か否かの確認のために、事前に預かって調査を行うらしい。
……言われてみたらその通りだ。
仮に本物だとしても、血ですら服を溶かす様な劇薬っぷりを発揮するし、もっと大きい物じゃどんな危険があるかわからないからな……。
もっとも、渡す側は問題無い事がわかっているし、献上するその時まで貴重な品を城で預かってもらえるって事で、不満を持つことは無いそうだ。
もちろん俺も。
「では、今日一日城で預かり、明日、城で返却いたします。こちらにサインを……」
騎士団のお偉いさんがケースを受け取り、代わりに書類を出してきた。
それに、ジェイクさん、じーさん、そして俺の順でサインをする。
明日の本番はあるものの、とりあえずは、これで俺の荷物配達の仕事は完了だ!
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・5枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




