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「む!?」
【隠れ家】から出て馬車を降りると、フィオーラは地面に何か文字らしきものを書き始めた。
読めはしないが、これが何かの儀式なんだろう。
何やら書き連ねることしばし、それは終えた様で、今度は持って来た薬品を撒いている。
これは、俺が領都で実験に付き合った物の完成品らしい。
それを撒き始めてすぐに、今まで伏せていた魔王種が体を起こした。
ジグハルト達が馬車から降りた時も体の向きを変えていたが、これはいよいよやる気になったのかもしれんね。
「体起こしたよ」
「そうか。移動は?」
「してない。その場でこっち見ているね」
「なら問題無いな」
俺の報告を聞きながらも、腕を組み呑気にしているジグハルト。
フィオーラもだが、この二人は本当にいつもと変わらない。
三人も、当初は緊張していたが、今はもうリラックスしている。
……ソワソワしているのは俺だけか。
近くに強力な魔物がいるのになんでこんなに落ち着いているんだろう……場数か?
◇
「待たせたわね。始めるわ」
ソワソワふよふよしていると、フィオーラの準備が完了した様だ。
そちらを見ると、地面に赤い模様で縁取られた青く光る円が描かれ、その中央にジグハルトが、そして円の縁にはフィオーラが立っている。
これから何か儀式をするんだろうけれど、今の状態でも魔力があの場所だけ極端に濃い。
とはいえ、いよいよ始まるのかと思うと……いかん、ドキドキしてきた。
「わかりました。二人とも準備は良いな?」
「ええ」
「問題無い。いつでも行けるぞ」
アレクがまずは二人に確認を取ると、今度はこちらを向いてきた。
「お前は……大丈夫か?」
「お……おう!」
ちょっと声が上ずっているが、いけるぜ?
俺のその様子に気付いた様で、アレクは苦笑を浮かべながら口を開いた。
「……前に立つのは俺達で、お膳立てはフィオさんが、止めはジグさんだ。気楽に行こうぜ?」
確かに俺の役割は、ふらっしゅを撃って、他所の照明を見逃さない事だ。
言われてみるとそんなに緊張する事じゃないな。
「それもそうだね……。よし!行くぞー!」
俺が時間を潰すわけにはいかないし、肩の力も抜けた。
ここは一気にやっちゃうか。
【浮き玉】の高度を上げて周囲の木の高さを越えると、森にもかかわらずポッカリと木どころか草すら生えていない場所がいくつかある。
魔王種がいる場所もそうなっているが、そう言えば何ヵ所か候補があると言っていたし、あそこがそうなのかもな。
次いで東に目を向けると、小さくだが光点が集まったり動いたりしているのがわかる。
先行している部隊達だろう。
まだまだ彼等は元気な様だ。
「ふっ……よし。ふらっしゅ!」
【竜の肺】を発動して、全力のふらっしゅを空に向けて放った。
荷物になるから傘を置いてきたが、そう連発する事も無いだろうし、これで十分だろう。
「お」
俺の魔法に呼応するように、まずは北東、そして少し遅れて南東から、同じく照明の魔法が撃ち上がった。
「アレク、両方から反応があったよ!」
急ぎ降りて報告をする。
「そうか……セラ【祈り】を」
「ほっ!」
「よし。行くぞ!」
【祈り】がかかったのを確認すると、即座に三人とも走り出した。
開始の合図を出したし、ここからは時間勝負だ。
まずはさっさと戦闘に持ち込んで足止めをして、二人が儀式を行えるようにしなければ!
「んじゃ、オレも行くね!」
「おう。無理はするなよ!」
「ちゃんと完了の合図を見逃さない様にね」
「はいよ!」
軽く言葉を交わすと、俺も先行する三人を追った。
◇
「そこを抜けて100メートルちょっとの所にいるよ。こっちを見ているから気を付けてね」
三人にすぐに追いつくと、先頭のアレクに木で遮られている先の様子を伝えた。
すっかりジグハルト達に注意が向いているから、抜けてすぐに戦闘って事にはならなそうだが、それでも用心するにこしたことは無い。
そもそも俺もまだ姿を肉眼で見ていないから、どんなのかわからないしな。
「おう!」
「姫、貴方は高度を取って後方へ!遠距離攻撃にも気をつけて下さい!」
「はいよ!」
「セラ!周囲から魔物が呼び寄せられた時は知らせてくれ。ダンジョンの時の様にお前一人で対処しなくていいからな!」
「りょーかい!」
そのまま走る事10数秒。
森を抜け、魔王種が陣取る広場に出た。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・5枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




