324 エレナside
セラとテレサが出発して数日経つが、時折仕事をしているセリアーナ様の視線が、ソファーや頭の上を向いているのに気付く。
いつもセラがいる場所だ。
雨季前に片づける仕事が多く、最近は朝から机に向かっている。
集中が切れてしまったんだろう。
「セラがいないと静かですね」
セラは口数が多い方では決して無く、むしろ少ない方だ。
それでもあの娘がいると、部屋に来た者が何かと声をかけ、それをきっかけに会話に発展する。
領主の執務室と言う、本来仕事の報告を除けば会話……まして雑談等通常起きない場所では、いい息抜きだった。
「いつも暇そうに転がっているから、皆かまってあげているのね」
と、口の端を歪めセリアーナ様が言った。
やや皮肉めいた言い方だが、無意識のうちにセラを探した事の照れ隠しなんだろう。
「ゼルキスでも暇を持て余しているのなら、姉上の相手をしてもらえるかな?どう思う?セリア」
「この時期は向こうのダンジョンは上層までは人が多いはずよ。あの娘ならそれを押しのけてまで狩りをしようとはしないでしょう。お母様ならアイゼンかルシアナに相手をさせているんじゃないかしら?それならエリーシャ様のお相手をする時間もあるはずよ」
セリアーナ様と旦那様は軽口を叩きあっている。
その様を横目に、手元の書類に目を落とす。
つい先日マーセナル領から手紙が届いた。
こちらが先に送った物の返信だ。
職人をゼルキス経由で送り、ゼルキスまでの引率をエリーシャ様が行うと書かれていた。
同じくゼルキスから届いた物には、リアーナまでの職人の護衛に領地の騎士団を動員するとあった。
リアーナにはゼルキスから移動して来た冒険者も多く、領内を移動する者達の護衛が捕まりにくくなっているそうだ。
貴族学院の入学に備えて春前に領内の掃除をしているはずだが、逃れた魔物もいるだろうし、ここで念押しをしておきたいのだろう。
この書類には、リアーナに入ってからの護衛の引継ぎと、予測される問題点の洗い出しとその対策について書かれている。
リアーナ側が警戒する事は、職人達の移動に便乗してやって来る者達の中に、不穏分子が紛れている事だ。
だが、律儀に深夜帯の警戒まで計画しているが、それは少々気負い過ぎだと思う。
1番隊が行う事だから口を挟みはしないが、深夜森の中を通り抜けようとするものを騎士団が捕捉するのは不可能だ。
その事はこの場にいる者達もわかっているのだろうが、1番隊隊長の教育の為だろうか、訂正をしたりはしない様だ。
隊員達は気の毒だが、今の季節ならそこまで体への負担は少ないだろうし、耐えてもらおう。
「ん?」
視線に気付き顔を上げると、文官達がこちらを見ている。
「……ああ」
そろそろ二人を止めて欲しいのか。
カロスとジーナも控えているが、彼等は執務中は基本的に口出しはしてこない。
そう決めているわけでは無いが、この時間帯は私とテレサが行っている。
「お二方、じゃれあうのも結構ですが、そろそろ仕事に戻って下さいね」
「じゃれあってなんかいないわ!」
即言い返してくるセリアーナ様。
「あっはっは、叱られてしまったね」
笑って答える旦那様。
反応の仕方は違うが、いい気分転換になったのか、二人とも再び仕事に取り掛かった。
◇
夜、アレクと食事をしながら互いの昼間の事を話す。
まだ籍は入れていないから、一応それぞれの部屋は分けているが、アレク用の部屋はもっぱら荷物置き場で、普段は私の部屋で生活している。
家事をしに来る屋敷の使用人達からは時折からかわれるが、さして問題は無い。
「セラな……纏まった時間を離れるのはこれが二度目だが、いなくなると意外と影響があるものだな」
ワインの入ったグラスを手にしながらそう言った。
彼は今はセラの代わりに見習達の引率に付き合っている。
彼は住民に人気があるから、一班だけだと不公平だからと、全ての班に同行しているが、そちらで何かあったんだろうか?
「今日はセラが見ていた班でしたね。何かありましたか?」
今回のリアーナの騒動のきっかけはその班の少年だ。
精々子供同士の言い合いの中で口を滑らした程度と思っていたが、班の人間そのものに問題でもあったんだろうか?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




