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「あっ……」
俺が指した一手を見て、ルシアナが小さく声を漏らす。
この大陸で広く親しまれている板戦と呼ばれるボードゲームがある。
チェスと、やったことは無いが囲碁が合わさった様な物で、互いに駒を動かし、駒を倒し陣地を制圧していき、先に王を取れば勝ちというゲームだ。
成り立ちは、戦場での暇つぶしに、軍議に用いる駒を使った遊びからだとか、軍隊の指揮の訓練に開発された、だとか色々言われている。
正式なルールは正方形の盤を使って1対1で行うのだが、東部のローカルルールでは、六角形の盤を用いて、2人でもプレイできるが最大で6人でプレイする事が可能だ。
2人でプレイする際は、駒を1組ずつ使うが、3組ずつ使ってフル盤面で戦う事も出来る。
その場合は相当な長丁場になり、領都の屋敷でアレクとジグハルトが、1ゲームを昼頃から始めて夜まで経っても決着がつかずに続けていたのを見た事がある。
そんな長時間のプレイ誰がするのかと思うかもしれないが、実は2人プレイで一番人気があるのはこの3組ずつ使うフル盤面だったりする。
雨季の間、仕事が出来ない農家や大工、そして冒険者がプレイするそうだ。
どこの村や街にも1人か2人は名人と呼ばれる者がいて、そういった者の中には他所からの客を相手に指したりもするんだとか。
場合によっては、貴族や商人に同行して他所の街まで行き、会談のついでに余興としてその街の実力者と、一局指したりするらしい。
いわゆるプロみたいなものだ。
その板戦をテレサの勧めでルシアナと指している。
これなら俺の時間も潰せるしテレサなりのルシアナへの援護なんだろう。
「……ああ、ありませんね。参りました」
そう言い頭を下げるルシアナ。
王を取れば終局だが、そこまでいかず今の様に投了する事ももちろん出来る。
ともあれ、これで俺の勝ちで、成績は2勝1敗と勝ち越した。
「はい。ありがとうございました」
俺も頭を下げ、終了だ。
「この辺で休憩されてはどうでしょうか?お二人ともお疲れでしょう?」
昼食後から始めて、2-3時間は経っている。
玄人のフル盤面に比べたら大したことは無いが、それでもこんなに連続して頭を使うのは久方ぶりで、すっかり消耗してしまった。
頭がくらくらするよ……。
俺のその様子に気付いたのか、テレサが休憩を提案してきた。
「そうですね。では私はお茶の用意をしてまいります」
ルシアナは失礼しますと告げ、部屋を出て行った。
彼女は結構余裕ありそうだな……接待プレイって事は無いよね?
◇
「お待たせしま……どうかされましたか!?」
使用人と共にお茶とお菓子を持って、部屋に戻ってきたルシアナが驚いた声を上げている。
さっきまで対局をしていた相手が、ソファーで膝枕をされていれば驚くのも無理は無い。
脳は大食いとは言うが、ものの見事に全部使ってしまった。
ハンガーノックって言うんだろうか?
頭脳労働での限界点がわからなかったから、油断してしまった……。
「ちょっとねー……ひさしぶりにあたまつかったから、つかれたよ」
「甘い物が来ましたし、それを食べれば元気になりますよ」
「そーだねー……。よっと」
体を起こし、そのついでに【祈り】も発動する。
低血糖に効くのかはわからないが、無いよりはマシだろう。
「これは……!?」
ルシアナと一緒に入って来た使用人達が驚いている。
そっちにも適用されたのか。
「姫の加護です。身体に良いのですよ?」
驚く彼女達に対し、テレサは随分雑な説明をしている。
主家の身内とはいえ、べらべら喋る様な事じゃないしな……。
うっかり加護をかけてしまったけれど、屋敷の中で戦闘をするような機会は無いだろうし、大丈夫かな?
「お母様やミネア様が話していた祝福とは別の物なのですか?」
「ええ別物ですよ」
「そうなのですか……お母様方が随分楽しそうに話していたので興味があったのですが……」
「ルシアナ様は、お若いしまだまだ必要ありませんよ」
俺みたいに森やダンジョンに行くようならともかく、正真正銘深窓のご令嬢だ。
テレサの言うように必要は無いだろう。
もっとも、ルシアナはガッカリした様子を隠していない。
親が話題にしていたら子供は気になるか。
とは言え、彼女にはいくら何でも早い。
ここは我慢してもらおう。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




