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「なー、隊長」
「副長! 何?」
森から帰還し、冒険者ギルドで採集した薬草の精算を待っている間、ホールで彼等はお喋りをしているが、それに俺も付き合う事にした。
前回は支部長の下に報告に行ったが、今回はその必要は無いからな。
指導にも顔を出していないし、ここで彼等の事を少し知るのも悪くない。
そう思ったのだが、早速一つ気付いた。
森でもそうだったが、こいつら俺の事を隊長って呼ぶんだよな。
多分、指導に関わる人間の中で、役職が一番上なのが俺だからだと思う。
身分なら一番上はテレサだが、そのテレサが俺の事を上扱いしているからな……。
口の利き方はともかく、彼等の中では自分達の隊長は俺なんだろう。
「その腹んトコに着けてるのが新しい恩恵品なんでしょ?」
「そーだよー」
【蛇の尾】は何時でも使える様に、基本的に刺青の状態でいる事にした。
ただ、尻尾が生えるという視覚的に非常にわかりやすい代物の為、隠す事はせずに別の物で誤魔化す事にした。
それが、今俺が付けているセリアーナの私物のベルトだ。
セリアーナが運動時のパンツスタイルの時に備えて用意していたが、まだ出番が無かった物で、花が彫られたバックルのお洒落なベルトだ。
今までベルトなんてした事の無い俺がしていたら、それだけでも気づく奴は気付く。
気付かれないならそれはそれで別に構わないんだが……セリアーナらしい小細工だ。
「恩恵品ってやっぱすげーの?」
「訓練場で使ってた弓も凄かったけど、親父からアレクさんは盾の恩恵品を持ってるって聞いたぜ。それも凄いんでしょ?」
何やら盛り上がる子供達。
俺が座ってる【浮き玉】も凄いんだが、小走り程度の速さしか見せていないから、彼等の中では評価は芳しくない様だ。
まぁ、直接戦闘に使える物の方がわかりやすいってのはあるんだろう。
そのやり取りを、数は多くないがホールには他の冒険者や、依頼で訪れている商人達が、微笑ましい、とばかりに子供達を眺めている。
「聖貨かー……俺もガンガン使ったら強くなるのかな?」
と、1人が口にした。
ガンガン使っている俺が言う事じゃないが、中々とんでもないこと言うな。
「バーカ。俺冬にそれいって親父に死ぬほど殴られたぜ。そもそも聖貨なんてそんなに持ってねーだろ?」
既にそれを言った奴もいたのか……そして、とーちゃん……。
まぁ、当たりの聖貨ならともかく、聖貨を10枚使ってギャンブルさせてとかいきなり言われたら、とりあえずぶん殴るよな。
似たような経験があるのか、他の2人も、わかる……といった表情で、窘めている。
「あのね、聖貨1枚で金貨10数枚と交換できるんだよ?大人の男性が半年位は何もしないで暮らしていける額なんだ。気軽に使っちゃ駄目だよ?」
こいつらが稼げる様になるのはまだまだ先の事だし、変に欲目を出して魔物に突っ込んで行ったりしたら困るからな。
しっかり釘を刺しておかなければ……。
だが、それでも考えを変える気は無いらしく、興奮し大きな声と身振りで話を続けている。
打たれ強いのは良い事だけど、ここで頑張っても意味が無いぞ?
「でもなー、俺の親父、暖炉の奥に隠してるの知って「わー!わー!わーっ!」
唐突に上げた俺の叫び声にホール中から視線を集めるが……そんな事より、この馬鹿なんてことを……。
辺りを見ると、今の言葉が耳に入ったのか近くにいた者達は慌てて両手を上げ首を横に振っている。
彼等の事は信じたいが……一応顔を覚えたぞ。
「な……なんだよ隊長。急にデカい声出して……」
当の本人は自分が何を言ったのか理解していない様だ。
こいつだけでなく、子供達もピンと来ない様子。
俺や、周りにいて偶々聞こえてしまっただけの連中の方が慌てている。
「お前……今日家帰ったら父ちゃんに、今やった事をちゃんと言えよ……?」
「……?」
俺の言葉を聞いてもキョトンとした顔をしている。
わかってねぇ……。
こいつは自分の家が聖貨を貯めている事、そして、その隠し場所を口にしてしまったんだ。
何枚貯めているのかはわからないが、よからん事を考えているヤツにその事が漏れたら、押し入られるぞ?
「なんだ?どうかしたのか?」
話は聞こえていなかったようだが、こちらの雰囲気を察知したのか、奥から支部長が出てきた。
「支部長!いいところに!」
この状況をリカバリーする方法を俺は知らない。
口を滑らせた子の父親は確か冒険者だったし、ここはもう押し付けよう。
セリアーナには……どうしようかな。
一応話しておくか。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・2枚




