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南館の談話室。
アレクが街にいる為、最近はここで夜を過ごす事が増えている。
そのいつもの談話室に、いつもは無い物がテーブルに置かれている。
聖像だ。
「じゃ、俺からやるよ」
皆にそう告げ、聖貨を手に取り聖像の前に立った。
見習冒険者達の引率が無い時は、俺も1の森で少しだが狩りをしている。
もっとも春になったばかりという事で、冬の間街にいた冒険者達がここぞとばかりに狩りをしているので、俺は控えめにしているが、それでも聖貨を手に入れ、無事10枚に到達した。
とは言え、当初10枚手にしたものの、俺はガチャをする気は無かった。
少々使い勝手は悪いが、念願の遠距離武器を手に入れたし、こんなのがあったらいいな……くらいは想像していても、さほど欲しいものは無かった。
何も10枚貯まったからと言って、必ず使う必要は無いし、貯めておけばいいかと思っていたのだが……同じく10枚貯まっているアレクがガチャを行うことになった。
アレクは、近いうちにジグハルトの下へ交代の人員や物資を届けに行く為、領都をしばらく離れることになる。
そして、順当にいけば二月後には魔王種との戦いが控えている。
今の装備でも十分勝算はあるのだが、万全を期しておきたいのだろう。
途中雨季を挟むし、屋敷の地下に訓練所はあるが【ダンレムの糸】の様に、威力のある物は使えない場合もある。
それなら、雨季まで一月近く時間があり、尚且つ魔物との戦闘する機会が控えている今がベストなタイミングだ。
……で、自分も出来るのに他人がやるのを見ているだけってのも……ね?
そんな訳で俺もやることにした。
まぁ、今は特別欲しい物や必要な物も無いし、気楽に挑める。
どんな結果だって、穏やかな気持ちで迎え入れられるはずだ。
「ほっ!」
聖貨を捧げ、ドラムロールが鳴るなり溜める事はせずに即ストップ。
頭に浮かんだ言葉は【魔晶】。
魔晶……大型の魔道具や屋敷のシステム周りに使われる素材だ。
……いいよ?
別に欲しい物は無かったし。
うん……大丈夫……俺は元気だ。
程なくして、目の前に野球ボールほどの光る物体が現れた。
「……あげる」
そして、宙に現れたそれをキャッチし、セリアーナに渡した。
「……ありがとう。魔晶ね。地下の設備に使いましょうか?訓練所のシャワー室や、地下通路がもう少し使い勝手が良くなるわよ?」
魔晶を受け取ったセリアーナは、それを眺めながら使い道をいくつか挙げてきた。
訓練所のシャワー室も地下通路も俺が利用する事は多いし、そこのグレードアップに繋がるならいい事だ。
シャワー室はもう充分設備が整っていると思うが、地下通路はまだちょっと薄暗かったりする。
明るくなるならいい事だ。
「任せるよー……」
セリアーナの提案にそう返したが、我ながらちょっと力が抜けている気がする。
「姫、大丈夫ですか?」
聖像が置いてあるテーブルからフラフラと離れる俺に、テレサが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫。慣れてるから」
「……そうですか。さ、どうぞこちらへ」
そう言うと、俺の手を取りソファーに座らせた。
チャレンジする回数が多いだけあって、外れを引く事だってそこそこある。
他の者にしてみたら、人生の一大イベントかもしれないが、俺からしたら数多くのイベントの一つに過ぎない。
大した事じゃー無いんだ。
……くそぉ。
実際外れを引いた事は何度もあったが、なんか……こんなつい何となくって気持ちで引いたのはこれが初めてだからな。
じわじわダメージが入って来た。
「では、次は俺が……」
「がんばれー」
俺が座るのを待って、今度はアレクが聖像の前に進み出た。
ちょっと空気を悪くしてしまったが、ここは彼に頑張ってもらおう。
そう考え、跪く彼に向かい声援を送った。
……随分力の無い声だ。
ガチャのダメージが残っているみたいだな。
「おう」
アレクは一言だけ返してきた。
背を向けている為、表情はわからないが、何となく笑っているような気がする。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚




