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今日も今日とて屋敷地下の訓練所。
そこで今俺は、セリアーナと向き合っている。
ただ今日はいつもと違う。
俺は【浮き玉】に乗り、そして見習達がセリアーナを取り囲んでいる。
テレサの開始の合図とともに一斉に走り出した彼女達は、セリアーナを取り囲みこの態勢を作り上げた。
さらに俺も加わり、11対1。
セリアーナも流石にいつもの余裕は無い様で、真剣な表情を浮かべ隙を見せない様に周囲を伺っている。
これはもう……今日こそ勝ちを……。
「あっ⁉」
見習の1人が、セリアーナの気を引くために、やや遠間から牽制の一撃を放った瞬間に、懐に入られ逆に一撃を貰いダウンした。
い……いかん!初手で作戦が……。
「失敗!一斉こうげ……きは無理だね」
最初に出来た穴をセリアーナは一気に広げていき、立て直す間も無くもう残っているのは俺一人。
蹂躙ってこういう事を言うんだな……。
「どうしたのセラ?後はお前だけよ?」
「ぐぐぐ……」
丸めた布で武器を打ち払い、掴んで投げ倒していくといった事を繰り返し、10人をあっさり倒したセリアーナは、先程と変わっていつもの余裕の笑みを浮かべている。
どうやっても無理だろうけれど、俺だけノーダメで降参するわけにもいかないか……。
「ふっ!」
諦めて【浮き玉】を加速させる。
セリアーナの武器は、いつもの布を巻いた木剣では無く、ただの布を丸めた物だ。
攻撃を受ける事は出来ないはず。
それなら、武器を狙えばいつもの受け流しが出来ずに、彼女のリズムを崩せるかもしれない。
接触まで残り数メートルとなった所で、そこから更に速度を上げ……⁉
後わずかという所でセリアーナが構えを解き、手にした丸めた布を投げて来た。
「わあっ⁉」
突如目の前に広がった布に驚き、思わず急停止してしまった。
そして、セリアーナがその隙を逃す訳もなく……。
「ぐえっ⁉」
その広がった布の下を駆け抜けたセリアーナは、俺の後ろに回り込み首に腕を回し締めあげた。
「そこまでっ!」
そして、テレサの終了の声。
完敗だ。
「エレナ、どうだったかしら?」
「完璧です。今回は武器が特殊なので二手かかりましたが、真剣を使えば全て一手で終わらせていたでしょう」
テレサが見習達を起こしに行く間、セリアーナとエレナは反省会を行っている。
「セラ、君はどうだった?」
「どうにもならんよ……。念を入れて牽制は遠目からやったのに、距離とかお構い無しだし……後はもう人数差も活かす間も無くどんどんやられて、俺一人になったからね……」
マジで何もできなかった。
「【浮き玉】は使っていたけれど、お前は本来剣を持って正面から1対1で戦うタイプじゃ無いでしょう?」
完勝した事で上機嫌なセリアーナがフォローを入れてくれる。
確かに彼女が言うように、俺は奇襲での先制に特化しているからな。
「まぁね……。【祈り】の強化具合もわかったし、オレの方も収穫はあったかな」
今日の集団戦は【祈り】を使っている。
俺達だけでなく、相手役のセリアーナもだ。
だからこそ、セリアーナはより加減する為に木剣に布を巻く程度では無く、布を武器にしていたわけだ。
今までも対魔物相手の戦闘でなら、他者に【祈り】をかけてきたが、今日は【祈り】がかかった者同士の戦いだ。
その為、強化具合にはっきりと違いが出た事がわかった。
【祈り】は加算じゃ無くて乗算だ。
強い者はより強くなる。
武器が布で、いつもの受け流しが出来ないセリアーナは、普段の戦い方から、エレナのスタイルに変えていたのだが、1人を倒したと思ったら、既に別の相手に襲い掛かり……【祈り】の強化も相まって、手が付けられなかった。
「本当ね。以前ダンジョンに一緒に潜った時はエレナやアレクも一緒だったから、そこまで違いが判らなかったけれど、こうやって見るとよくわかるわ」
と、見習達の方を向いて言った。
テレサに起こされた彼女達も向こうで反省会をやっている様だ。
つい今しがた完敗したばかりなのに、堪えた様子は無い。
このところ連日で負け続けているから、慣れたのかな?
良い事かどうなのかはわからないが、ガッツはあるんだろう。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚




