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領主屋敷の地下にある訓練所。
そこで今俺は木剣を手にセリアーナと、2メートルほど距離を空けて向かい合っている。
剣道の八双の様に両手で剣を持ち上段に構える俺に対し、セリアーナは片手で剣を持ち半身のフェンシングの様な構えだ。
ちなみにセリアーナの剣は布を巻いている。
「…………たっ!」
駆け寄り、技も駆け引きも何も無しの渾身の袈裟切りを放ったが、セリアーナはそれを受け止めるのではなく、右手一本だけで持った木剣で足元に受け流した。
理想は剣だけを弾きたかったんだが、俺の筋力を考えればこうなる事はわかっている。
想定通りだ。
本命はこちら。
「ふっ!」
渾身の一撃を受け流され体が泳いでしまうが、大きく踏み出す事で体勢を整え、すかさず返しの逆袈裟の一撃を放つ。
いわゆる燕返しだ!
「……あら?あ痛っ⁉」
が、その一撃は文字通り空を切り、代わりにポコンと後頭部に衝撃が来た。
振り返ると、そこには得意気な顔のセリアーナが俺に剣を突き付けていた。
「面白い技だったけれど……まだまだね」
「むぅ……」
何も言えない……それにしてもいつの間に背後に……?
「はい。そこまでです」
審判役のエレナから終了の合図が出た。
俺の負けだ。
「まずは奥様、腕力勝負に出ずに上手く技で圧倒しましたね。お見事です」
「その娘相手に力で勝ってもね……」
乱れたのか結んだ髪をほどきながら、肩を竦めて答えるセリアーナ。
彼女はその気になれば、受け止めてそこから更に押し返す事くらい簡単にできる。
だが、それでは訓練にならないんだろう……真面目なねーちゃんだ。
「セラも、悪くなかったよ。最初の大振りの一撃で相手の構えを崩して、空いた胴体を狙おうとしたんだね」
惨敗だったが俺の評価も悪くない様だ。
まぁ、エレナは基本的にほめて伸ばすタイプみたいだしな……。
「いつの間にかセリア様が後ろに行ってたんだけど、アレどうやったの?」
「君が体勢を崩した時に、大きく踏み出して位置を入れ替えたでしょう?その時に奥様も一緒に移動して後ろに回り込んだんだよ。振り向く手間を惜しんだんだろうけれど、足、服、髪、どこでもいいから相手の一部を視界に入れておくと、動きについて行けるよ」
「ほうほう」
確かに、2撃目は適当に勘で振りぬいた。
まさか体ごといなくなるとは思いもしなかったからな……しかし、その避け方をしたって事は、初見で見破られていたのか……。
「なかなか面白い攻め方だったわ。もう一本やるわよ」
髪を結び直したセリアーナはまだまだやる気の様だ。
まぁ、まだまだ技のストックがあるし、負けてばかりだけれど俺もチャンバラは楽しい。
満足するまで付き合うか!
◇
冬の2月も終わりに近づいた頃、セリアーナの冬の間に終わらせておくべき仕事が全て終わった。
彼女の仕事は旧ゼルキス領の人間の、領地の移行に関しての陳情や各所への折衝だったのだが、想定よりもすんなり行っていたようで、一月以上余ってしまった。
これが春や夏なら街の様子を見に行ったり出来るが、今は冬。
部屋で本を読んだりして暇を潰していたのだが、折角地下に訓練所があるのだからと、体を動かしに3人で出向いた。
そして、セリアーナが設置されている訓練用の剣や盾を目にした事で、俺に簡単な剣術を教えようとなった。
俺が直接剣を手にすることは無くても、知識を持っていれば万が一の時に役に立つかもしれないからだ。
ところが、自分達が見た事の無い変な技を俺が使った事で、試合をする運びとなった。
前世で蓄積した、マンガやゲーム、映画の知識が初めて生きたんじゃないだろうか?
もっとも……。
「あいたっ⁉」
根本的な性能の差というのだろうか?
セリアーナは初めて見る技にもかかわらず、ことごとく防ぎ、俺は一本も取れないままだ。
それどころか、技を見る為ってのもあるんだろうが先攻を譲ってもらっているのに、まともに打ち合わせる事すら出来ないでいる。
「ぐぬぬっ……」
頭を押さえ、唸り声を上げる。
布を巻いているとはいえ、流石に一時間近くポコポコ叩かれ続けると、痛くなってくる。
「久しぶりに体を動かしたけれど、気持ちいいわね。エレナ、明日は貴方も一緒にやりなさい」
一方セリアーナは久しぶりの運動でスッキリしたご様子。
明日もやるようで、エレナに声をかけている。
俺も一本くらいは取れるようになりたいな……。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・9枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・38枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚




