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「ひぃぃぃ…………」
夜の空に微かに響く俺の声。
テレサが【浮き玉】に乗り、俺は彼女に抱えられた状態でゼルキス領都へ向けて高速で移動している。
秋の3月ももうすぐ終わりというこの時期の夜、そして上空という事もあり寒さも昼間以上のものがあるが、厚手の革製のコートに帽子、マフラー手袋、テレサはわからないが毛糸の腹巻にパンツと防寒装備はばっちりだ。
もちろんゴーグルも着けて風圧対策もしている。
セリアーナは走り屋というかスピード狂というか……速度もコースもガンガン攻めていたが、テレサは堅実だ。
夜の王都と夜の草原と違いはあるが、一定の高さと速度を保ち、真っ直ぐ飛んでいる。
装備は完璧で、ドライバーも堅実。
だが、恐怖を感じる要素は無いはずなのに、なんだろうか……自分では無く他人が操縦するからだろうか?
セリアーナの時に比べ速度を多少は落としているはずなのに、あまり恐怖の度合いが変わらない。
すごく怖い。
「姫!大丈夫ですか!」
「だいじょーぶっ!そのうち慣れるから!」
怖いがグズグズしていても始まらないし、むしろどうせ変わらないのならいっそ速度を上げてもらいたい。
「この辺は前行った時も魔物が出たんだ!一気に速度を上げて突破しよう!」
「……わかりました。それでは速度を上げますから、しっかり掴まっていて下さいね」
そう言うと、言葉通り速度を上げ始めた。
テレサにしがみついているのでどれくらいの速度が出ているのかは見えないが、風の音と体にかかるGがどんどん増している事から、かなりの速度なのはわかる。
これはもしかしたら、前回よりもさらに時間を短縮できるかもしれないな。
◇
基礎体力の違いだろうか……?休憩は一度もすること無くテレサは移動を続け、早々にゼルキス領都が見える場所まで辿り着くことが出来た。
恐らくかかった時間は4時間弱……今の時刻は3時前後ってところか。
いや凄いね。
テレサは堅実な人間だと思っていたが、魔物との戦闘を避ける為に俺が迂回していた森も山も意に介さず一直線だった。
まぁ、彼女なりに無事突破できる算段があっての事なんだろうけれど、魔物の気配がうようよしている上を通るのは心臓に悪かった。
とは言え、その甲斐あって前回よりもずっと早い到着だ。
そんなわけで、俺達は領都から1キロほど離れた所にある小さな森の浅瀬で【隠れ家】を発動し、朝を待つついでに休憩を取っている。
俺は領内の自由な移動の許可が出ているしテレサも爵位持ちだ。
街の中に入ろうと思えばこの時間でも普通に入る事は出来る。
だが、前回の様にただ手紙を届けてお終いと言うわけじゃなく、1週間程と短期間だが領主の屋敷に滞在する事になっている。
深夜に勝手に入り込むってのは、いくら顔見知りとは言え不味い。
それなら、どうせこんな時間に街に入ってもやることは無いんだし、朝まで【隠れ家】でゆったり過ごす方がマシだろう。
「そーいやテレサは、領都で何するの?何となくは聞いてるけれど、詳しい事は知らないんだよね」
ちなみに俺は初日……つまり今日は、親父さんに挨拶した後、ミネアさん達に【ミラの祝福】の施療を行う予定だ。
その後は適当に屋敷内でぶらぶらして、翌日からダンジョン探索に繰り出す事になっている。
俺個人としてはダンジョン探索が第一目的なんだが、建前上は領地間の交流だ。
顔繫ぎ程度ならこれでも十分だろうが、リアーナ領での仕事があるテレサまでわざわざ来ている以上は他にも目的があるはずだ。
「姫のお世話の為ですよ?」
真顔で即答するテレサ。
「…………あれ?」
世話っつってもダンジョンに潜っているし、それ以外はちょっと街をぶらついたり屋敷でゴロゴロしたりする位だけど……、あ、ひょっとして休暇扱いとか……?
「冗談です」
困惑する俺を見て満足したのか、そう言い自分の予定を話し始めた。
ざっくりまとめると、セリアーナじゃなくてリーゼルの名代として滞在するそうだ。
今まではゼルキスが魔境と隣接していたけれど、これからはリアーナがその位置に付くし、領地の役割も変わって来る。
その為の協議をするそうだ。
と言っても今回だけで決めるわけじゃないし、逆にゼルキス側がリアーナにやって来る事もあるだろう。
仕事だけじゃなくて、このゼルキスや東部の雰囲気をテレサに知ってもらう為ってのもあるそうだ。
休暇って予測は遠からず……かな?
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚




