270・アレクside
あの後、支部長室は本格的に酒盛りが始まりそうだったので、俺とアシュレイは辞去した。
俺もだがこいつも屋敷に戻る様なので一緒にいるが、二人きりと言うのも初めてだ。
この際だ……聞きたいことを聞いておこう。
「リックはどうなんだ?使い物になるか?」
曖昧な聞き方になってしまったが、それでも伝わったようでアシュレイが口を開いた。
「隊長か?そうだな……5年10年もすればものになるんじゃないか?今はまだ駄目だな」
「辛辣だな……。夏の巡回などでもだが評判は悪くないぞ?」
「彼が今あの地位にいるのは家柄と騎士団での勤務態度……後は学院での評価か?要は騎士としてまだ何も手柄を立てていないのに隊長という地位にいる事が自分で納得できていないんだ。にもかかわらず断る事が出来なかった事も含めてな」
「気持ちはわからなくはないが、面倒なやつだな……」
それを聞き、クッと堪えるように笑うアシュレイ。
「能力自体はあるからな。リアーナでの騎士の役割はまだ当分魔物相手になるから、その間に成長してもらうつもりだ。それでも駄目だったら、その時は私が就くさ」
「最初からお前が就いておけば……ああ……お前は親父の跡を継ぐのか?」
リーゼル付きで現リセリア家の家宰カロス。
その息子だったな……。
「そうだ。次代の為に組織を盤石にする事が今の私の役目だ」
セリアーナ様は冒険者を自勢力に取り込んでいる。
リーゼル様は代わりに騎士団をか……それでもバランスはセリアーナ様に大分傾いている。
「なるほど……そりゃリックに成長してもらわないとな」
「なに……後数年もすれば手柄を上げる機会が来る。それで少しは落ち着いてくれるさ。それまではお前にも少し面倒をかけるかもしれないが……」
「わかった。ま、その程度なら適当にあしらっておくさ」
機会さえ来れば問題無いと言える程度には実力を信頼している様だ。
それなら俺が口を出す事では無い。
◇
「ふぬっ!……ぬぬぬぬっ……。ふぅ」
【ダンレムの糸】を発動し、弦を引き、そして発射前に解除した。
これで10回連続成功だ!
「姫、お見事です」
一息ついた俺を、テレサがすかさずヨイショしてくる。
「本当ね。てっきり潰されるお前が見れるかと思ってわざわざ地下までやって来たのに……残念だわ」
セリアーナが冗談を言うようにでは無く心底がっかりした様子で言った。
「確かにそれなら君でも扱えるか……複数の恩恵品を持つ君ならではだね。よく思いついたもんだよ……」
そして感心するように言うエレナ。
ここは領主屋敷の中庭の地下だ。
縦横ともに100メートル程の広い空間で、領主側の人間専用の訓練所になっている。
他にもここからあちらこちらの外の施設に通路が繋がっているそうだが、まだ工事中の箇所も多く俺も詳細は知らされていない。
まぁ、それはさておき【ダンレムの糸】だ。
大きいし重たいしで、普通の弓の様に使うのは俺には到底無理だった。
構える事も引く事も出来なかった。
だが、幸い俺には【浮き玉】がある。
弓を地面に置き、宙に浮いた状態の俺が上端を両手で支える事で直立させることが出来た。
そして、まずは左足を弓にあてたまま、発動させる。
そうすると弦が現れるが、腕はもちろん足でも力が足りず引く事は出来なかった。
そこで【緋蜂の針】を発動する。
発動した右足で弦を蹴る事で、引いたのと同じ状態にする事が出来た。
これが普通の弓なら矢をつがえる必要があるが、そこはファンタジーアイテム。
弦を引ききりさえすれば勝手に魔力の矢がセットされて、いつでも射れる状態になる。
【浮き玉】に乗り両腕を伸ばし弓を支え、さらに両足を180度開脚する事で射る、と自分でも間抜けな格好だとは思うが、これなら俺でも扱える。
どうせ移動しながらは無理なのだから、いっそ開き直って固定砲台に!だ。
射る前に発動を解除すれば、10分待たなくてもまたすぐに使える為、練習もばっちり出来た。
地下とは言えこの威力を屋内で試すのは危険すぎるからまだ実際に射った事は無いが、まぁ、お楽しみは雨季明けのゼルキスダンジョンまで我慢だ!
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚




