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深夜……こんな時間に起きているのは以前攫われた時以来だろうか?
もうすぐ秋という事もあり、微かに虫の鳴き声も聞こえてくるが、それを除けば静かなものだ。
当たり前と言えば当たり前だが、窓から見える範囲に人影は無し。
屋敷の警備は手前の坂と門そして庭だけだしな……更に俺の恰好は黒のワンピースに黒のジャケットと黒ずくめで、これなら気付かれる事も無いだろう。
「セラ、確認よ。お前がまず優先するべきことは、誰にも気づかれない事。速さよりもそちらを第一に考える様に」
照明を落とした暗い部屋の中で、セリアーナが最終確認を行う。
「ほい!」
親父さんへのお届け物は封書だ。
大した事は書いていないそうだが、リアーナ領都・ゼルキス領都間の機密伝達の試験が今回の目的だ。
一応、伝令用の鳥は騎士団が飼育しているそうだが、魔物の多さを考えると実用的かどうかわからないらしい。
ただ、今回の場合は人間が相手の場合を想定しているみたいだし、もしかしたらいずれ起こるであろうセリアーナへの襲撃に備えての一環かもしれない。
リーゼルやオーギュスト、もちろんアレク達も知っているが、屋敷を警備する兵士はこの事を知らない。
……俺が今までこなしてきたお使いの中で一番重要かもしれないな。
「よっし……じゃ、行ってくるね」
「無理せず確実に、よ。行ってらっしゃい」
セリアーナの声を背に受け、窓から外へ。
そして一気に上昇した。
◇
「ひゃー……!」
領都から出て、街道沿いに快調に西に向かって空を飛んでいるが、星の凄い事凄い事……。
北極星の様な動くことの無い星があるらしい。
ちょっと見てみたかったが、これじゃ見つけられそうも無いな。
それにしても、余裕のある状況で夜外に出る事なんて、何気に初めてじゃないか?
無駄にクルクルとロールとかもやってしまう。
後ろを向けば既に領都の明かりも見えなくなり、農場地帯も通り過ぎた。
大陸西部ならともかく、この国で夜に移動するのはよほどの腕利きでも命の危機を覚悟しなければいけないそうだ。
その為、地上には人の気配を感じない。
物語でよくある、焚火を焚いて夜を徹するってシーンはこの地域じゃ見られそうにない。
その代わり……魔物の姿はあちらこちらに見える。
いくつか通り過ぎた森にはもちろん、そこからあぶれた魔物もいたりする。
今も街道脇の草原にいる魔物の群れが、上空を結構な速度で移動中の俺に気付いたのか追って来ている。
昼間の様に森に近寄らなければいいとかそういう問題じゃない。
夜はどこにいても危ない。
一応今回の任務は誰にも見つからないことを最優先にしているから、発光する【緋蜂の針】と【妖精の瞳】は使えない。
アカメとシロジタで補っているが……対象の強さはわからない。
四つ足で群れを形成ときたら多分オオカミだと思うが、こいつらに遠距離攻撃手段は無い。
このまま無視し続けても問題無いんだろうが……後ろを追いかけられるのも鬱陶しいし、街や村の近くまで引っ張って行ったら、擦り付けてしまう事になる。
それはお飾りとは言え、この領地の騎士サマとしてどうだろう……。
「……ぶっちぎるか」
動物の狼は確か50キロ以上で走る事が出来、速度を落とせば長距離の追跡も可能だそうだ。
魔物ならさらに能力が上がっている。
それなら、これは無理だと諦める位の速度で一気に突き放す。
「……ふっ!」
息を一つ吐き、気合を入れるとグングン速度が上がり、それに合わせて風切り音も増していく。
引き離される事を悟ったのかオオカミ達が吠えているが、それも一気に遠ざかり、あっという間に聞こえなくなった。
俺の意思で出した最高速度は魔人相手に蹴りをかました時だ。
アレは100は出ていた。
セリアーナが王都で出したのは……もっと出ていたような気はするが、アレはノーカンにしよう。
この辺の地形は勾配があり、馬車での移動の時はあまり速度が出せなかったが、俺は地面では無く空を、それも上空数十メートルで、人目も無く前を遮るものは何も無い。
天候もよく、風も無い。
最高速度チャレンジにはもってこいだ!
……これは……出せるなっ!
最高速度!
しかし……速度はグングン上がるが、それに合わせて風の抵抗も増えていく。
顔の前に腕をかざし目を風から防いでいるが、これは結構きつい!
流石にバイクの様に風防を用意する事は出来ないが、今度ロブの店でゴーグルなんか作って貰うのもいいかもしれないな。
もちろん蛇のマーク入りだ!
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・【琥珀の剣】13枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・5枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・12枚




