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「セラ、お前はこれからダンジョンは一人で行ってもいいわ。街での【浮き玉】使用も認めます。ただし、いくつか条件を付けます。いいわね?」
おお…ついに俺も一人前に…。
と感慨に浸る間もなく、セリアーナは続けていく。
「街で使っていい物は【浮き玉】だけ。その時は必ず使用人の格好でいること。うちの人間である証明になるわ。【影の剣】は指につけておくのはいいけれど、ダンジョン以外での使用は控えなさい。その格好でならそうそう無いはずだけれど、万が一物取りなどにあったなら戦わず逃げなさい。どうしても逃げられない様なら仕方が無いけれど、お父様の領民よ。極力殺すような事態は避けなさい」
外ではメイド服で移動だけしろって事だね?
「うん。わかった」
少し物騒な内容ではあったけれど、そこまでたいしたことでは無いな。
「結構。ダンジョンでは浅瀬までで上層には行かないように。境目はわかるわね?」
「うん」
上層も手前は地面に舗装が続くが、壁や天井は舗装が無くなり土肌がむき出しになるそうだ。
天井近くを移動するつもりだし、気づくのは訳ない。
「この時期は浅瀬でも奥ぐらいしか人はいないでしょうから、早めに手前で【隠れ家】の確認もしておくように。もし危険を感じたら即逃げ込みなさい。魔物にもだけれど、人間にも気を付けるように。領内の者ならともかく、数は少ないけれど他領の者もいるから、決して油断しないように」
「う…うん」
何だろうか?妙に念を押すなーと、まだ続けそうなセリアーナを見て思う。
「なあ、お嬢様」
「何?」
そのセリアーナを遮って、アレクが口を開いた。
「こいつの場合、理由をちゃんと説明すれば理解すると思うぞ?」
「私もそう思います」
エレナもアレクに同調する。
「…そう?」
「まぁ、なげーよ、とは思ってるけど…」
「そう…わかったわ。ダンジョンは聖貨で出来ているの。1万枚捧げ、儀式を行うことで発現するわ」
マジか⁉
自然に出来たとは思わなかったけれど、凄いな…聖貨。
でも1万枚…お高い。
「ダンジョンを維持するのに最低でも年間100枚捧げる必要があるの」
「最低?」
「そう。ダンジョンで人間が死ぬと、2日以内に死体をダンジョン外に出さないと、核を潰された魔物の様にダンジョンに吸収されてしまうわ。ある程度の危険は承知で探索に挑んでいるのだしそれは仕方が無いわ。問題は、1人吸収される毎に維持に必要な枚数が10枚増えていくの」
…結構多いな。
聖貨が出るならとにかく人海戦術でガンガン突っ込ませればいいって思っていたけれど、そういった理由だったのか。
「今のゼルキスのダンジョンは年間210枚よ。まだ余裕はあるけれど、だからと言って無駄に増やしていいものでは無いわ。何より、吸収される毎に階層を無視して移動する強力な魔物が現れる様になるの。さすがに浅瀬には出ないけれどね?」
レイドボスみたいなものか…?
「そしてその維持する聖貨を払えなくなると、最後にダンジョン内部の魔物をダンジョン外に放出して崩壊するわ」
「放出って事は、街中に出てくるの?」
危険過ぎないか…?
「そう。危ないでしょう?今でこそ警備や審査の為にギルドが出来たけれど、それができる前、100年程昔ね。その頃は敵対する国や領地を潰す為にダンジョンに死刑囚を送り込んだりもっと直接的に、ダンジョン内部で冒険者を殺したりしていたそうよ」
探索届とかやたら細かいとは思ったけれど、そういう事情か。
ただ気になることがある。
「ダンジョンで死ぬなよとか言われてたの、優しさじゃなかったの…?」
「ギルドのダンジョン専用職員は騎士の中でも面倒見がいいのが割り振られるから、そこは疑わなくていいんじゃないかしら?」
あ、良かった…
「少し長くなったけれど、要はダンジョンで死なれては困るの。どれだけ魔物を倒せるかよりも、確実に生還できることを重視しているわ。昨日今日でお前はそれが出来ると判断したわ。出来るわね?」
「大丈夫。まだまだ死にたくないしね」
「結構。明日から無理をせず探索をしなさい」
「はいよ」
中々油断はできないみたいだけれど、何はともあれソロ探索の許可は出たし、明日から頑張らないとな!




