210
アレクとエドガーの2人がカンカンと木剣で撃ち合う音が甲板に響いている。
「はあっ!」
上段から振り下ろすエドガー。
「せいっ!」
それを受けるのではなく、下から切り上げ迎え撃つアレク。
しばらく鍔迫り合いを続けたかと思うと距離をとり、再びぶつかっては距離をとってと、同じような事を繰り返している。
突きや腕力に物を言わせたりしないところ何か作法があるのかもしれない。
海上ほど揺れてはいないが、ユラユラと足場が不安定なのに、元気な事だ。
川に入り北上すること3日。
予定通りに行けば明日にはアルザの街に到着し、そこで船から降りる事になる。
その後は王都まで馬車での移動になるので、それまでにこの船旅で鈍った感覚を取り戻したいらしく、昼食を済ませてからぶっ続けで稽古を行っている。
それに、まだ大丈夫とは言えそろそろ雨が降り始めてもおかしくはない。
やるなら今日だろう。
最初は女性陣も興味深げに眺めていたが、30分もすると船室に引っ込んでしまった。
まぁ、日差しも結構強いし、むしろよく持ったと言えるだろうか……?
俺もそうしたかったが……。
「よいしょ」
そろそろ効果が切れそうなので、2人の上に移動し【祈り】を発動した。
より実戦に近い状態でと、【祈り】をかけて欲しいと頼まれ、付き合っている。
最初は面白そうだからと引き受けたが、こんな長時間やるとは思わなかった。
引き受けた手前、仕方なく傘を日傘代わりにして付き合っている。
この傘まともに使うの初めてかもしれないな。
◇
「ふう……。この辺にしようかアレクシオ」
ようやく満足いったのかエドガーが振り回していた木剣を置いた。
始めた頃は真上にあったお日様がいい感じに傾いている。
長かった……。
釣りをする趣味でもあれば時間を潰せたのかもしれないが……いや、大物はいないだろうけれど川にも魔物はいるからな。
どのみち眺めておくしかなかったのか……。
エドガー・サリオン・マーセナル。
エリーシャの夫で次期侯爵様。
短く刈り揃えた金髪に浅黒く焼けた肌。
今は上半身裸になっているが、この船に乗った時の仕立てのいい服の着こなし。
一見海の男だし実際そうなんだろうけれど、ちゃんと教育を受けた立派なお貴族様だ。
その癖、アレクと一緒になって延々と剣を振り回す体力。
流石に本気で戦えばアレクが勝つだろうけれど、結構打ち合えていたし剣の腕も良い。
【妖精の瞳】で見ると、見た目通り体力もだが魔力も結構多い。
割合で言えばエレナの体力と魔力を逆にした感じだ。
腕っぷしが強くないと船員達を纏められないのかもしれないな……。
どこぞの国のお姫様が懸想していたらしいが、納得できる。
「なあ、アレクシオ。何故私は彼女に睨まれているのだろう……?」
考え事をしながら彼の方を見ていると、どうやら睨んでいると受け取られてしまった。
失敬な……!
「アレは考え事をしている時の顔で、決して睨んでいるわけではありませんよ。ああ、でも……私達があまりにも長時間稽古を行っていた事でご立腹なのかもしれませんね。引き受けた以上戻るわけにもいきませんからね」
苦笑を浮かべながら俺の表情を解説するアレク。
「ちっ……わかっているじゃないか……!」
気付いていて敢えて無視していたな……。
多分こいつはこいつでずっと船に乗っていたから体を動かしたかったんじゃないか……?
「それは申し訳ない事をしてしまったな……エリーシャから彼女の機嫌を損ねるなと言われているのだが……」
「……別に怒っちゃいませんよ?」
一、二発蹴りたいなとは思っているが……。
「そうですね……セラ、【琥珀の剣】について話を聞かせてもらうってのはどうだ?」
「うん?」
同じく上を脱ぎ汗を拭っていたアレクが一つ提案をしてきた。
しかし……このにーちゃんは何か知っているのかな?
女性向けの護身用アイテムだけれど……。
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・【琥珀の剣】3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・4枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




