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「うはぁー……」
荷物を積み込む作業員の声が港に響く中、負けじと俺の高い声も響いている。
「見るのは初めてかしら?凄いわよね」
隣に立つセリアーナが驚く俺を見て満足そうにしている。
視線の先にあるのは船。
といってもただの船じゃない。
サリオン家自慢の武装船だ。
領都を出発して2日目。
泊まった街を早朝に西門から出発した時、俺は山越えだと考えていた。
その街は迂回路と直進路の分岐点になっており、前回王都に向かった際はそこを北に進んだからだ。
ところがその日の昼、山の麓にある村に到着したのだが、宿泊せずに小休止を取った後出発した。
何故か山に向かわず南に向かって。
そのままどこにも立ち寄らず日が暮れ始めた時ようやく見えてきたのは、名前だけは知っているオズの街。
ルクス川という大森林から流れている大きな川がある。
オズの街はそのすぐ側にあり、その川を使った南部との交易で栄えた街だ。
その街に入る事無く真っ直ぐ港に向かい、そしてそこで代官と合流し今に至っている。
俺達だけでなく、伯爵一家勢揃いで馬車は3台増えた。
その分足も遅くなるしどうするんだろうと思っていたが……船かー……。
ヤッベェ魔物がいるこの世界の海にはあまり近づきたくないんだが……。
「これで海まで下ってそこから王都を目指すんだね?船なら昼夜関係ないもんねー……」
物語で、小舟で東を目指すと押し戻されるシーンがあった。
多分海流の関係だろう。
逆に、西に進むのなら速度が出るって事だ。
「それだけじゃ無いわよ?」
「む?他にもあるの?」
何か見落としがあったかな?と訊ねようと思ったが、積み込みを終えたのか、船長らしき男が降りて来て親父さん達に船に乗るよう促している。
「続きは乗ってからにしましょう。行くわよ」
「はーい」
◇
「待たせたわね。大人しくしていたかしら?」
「あれ?おかえり」
セリアーナがノックもせず部屋に入って来た。
まぁ、ここは彼女用の部屋だし別に構わないが、アレクはともかくエレナまでいない。
この船は客船というわけじゃ無いんだろうが、他国に向かう事がある分ちょっとしたパーティーも開けるようになっていた。
乗船が済むとすぐにそれが開かれセリアーナ達は出席していたのだが……。
「まだ続いているよね?もういいの?」
微かにホールの音楽が聞こえてくる。
まだお開きってわけじゃ無いんだろうけど……。
「ええ。後の事はリーゼルに任せて来たわ。食事は?」
そりゃご愁傷様だ……。
海の男って感じのおっさんばかりだったからな。
「うん。運んできてくれたので済ませたよ」
「結構。【隠れ家】をお願い。お前にも今後の予定を説明するわ」
「はいよ」
この部屋は船室が並ぶ一画の一番奥にある。
手前がエレナの部屋で、中の仕事は一応俺がいるから、人が来ることは無いだろう。
「ほっと……。どーぞー」
念の為、部屋の奥の壁に発動し、セリアーナと共に中へ入った。
◇
「……問題無いわね」
セリアーナはモニターを付けると軽く周辺の様子を探った。
これはもう癖だろう。
「んで?予定を話してくれるんでしょ?」
いつもの指定席にかけたセリアーナの向かいに座って話を促した。
「ええ。まずはこの船は明日の昼過ぎには海に出て、その翌日にマーセナル領の領都に到着するわ」
「うん。海に面してて大きい港があるんだよね?」
「そう。そこでエリーシャ様ご夫妻が乗船。食料等の補充だけして出港よ。3日でタミラ川へ到着しそこから北上して4日で王都圏のアルザの街へ。馬車に乗り換えて翌日にグラードの街に着き、また翌日に王都よ」
「無茶苦茶早いね……。でも凄いとは思うけれど、これってそんなに隠す様な事なの?」
20日そこらでルトルから王都まで辿り着けるってのは確かに驚きだ。
ただ、少々特殊なルートではあるけれど、別に隠す様な事でも無いはずだ。
「このルートは、エリーシャ様とエドガー様、私とリーゼルがそれぞれ結婚する事で可能となったのよ。サリオン家も今まではずっと陸路を使っていたのだし、私達が初めてね」
「へー……」
王都圏にマーセナル領、ゼルキス領とそれぞれ繋がりが出来たから生まれた新航路なのか。
どれくらいの人間が利用できるのかはわからないが、国の中心から端っこまでがぐっと縮まったと思えば、確かに大きい……か?
「もちろんそれだけじゃ無いわ」
セリアーナは、首を傾げる俺を見て、笑いながらまだ続きがあると言った。
この笑い方は何か企んでいるヤツだ……!
セラ・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・【琥珀の剣】3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・4枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




