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さて、セリアーナが使用人たちへの指示を終えたところで、俺たちは執務室に向かうために部屋を出た。
俺は当然【浮き玉】に乗っているが、二人は今日は歩きだ。
屋敷の移動の際にはセリアーナは【小玉】に乗ることも多いんだが、運動不足解消のために今日は歩いて行くんだとか。
先日の件が堪えているようだ。
たかが屋敷の中の移動だとはいえこの広い領主の屋敷だ。
中々侮れない距離で、朝の運動には丁度いいだろう。
「……多いわね」
南館から本館に入り廊下に出たところで、前を歩くセリアーナが足を止めたかと思うと、小さな声で呟いた。
先程セリアーナの部屋でエレナが話していた通り、今日も本館には大勢の訪問者がいて、その訪問者と彼らを案内する文官たちとで廊下は人が一杯だ。
とは言え、セリアーナが今はどれくらいの範囲まで加護を広げているのかわからないが、この屋敷くらいは範囲に収められているはずだし、この状況は理解出来ていただろう。
それでも実際に見たら驚いたんだろうな。
最近セリアーナは南館からほとんど出てなかったってこともあるかな?
「魔物の件だったり、アレクたちの帰還だったり、その都度屋敷に来る人たちも増えてたけど、今日はまた……多いね」
「まあ……わかってはいたけれど、普段ここを訪れない者たちがここまで多いと、流石に驚くわね」
廊下に出たところで足を止めていたセリアーナだが、人が多いってだけで足を止めていたことがおかしかったのか「フッ……」と笑うと歩き始めた。
◇
「セリアーナ様っ!?」
セリアーナの姿に気付いた者たちが、慌てて廊下の端によって頭を下げている。
前が開いたし歩きやすくなったのはいいんだが……その様子を見てさらに奥の者たちも頭を下げている。
さらに、それが……どんどん続いて行って、結局廊下にいた者たち全員が端によって頭を下げている状態だ。
「……オレはたまに旦那様と一緒に移動することもあるけど、こうはならないよね」
リーゼルの場合だと、初めに会った者が頭を下げようとするが、すぐに「必要ない」と言ってそれを止めている。
まぁ……リーゼルの性格もあるがろうが、屋敷を移動する度にそんなことになっていたら、リーゼルも屋敷の者も碌に仕事が出来ないしな。
そのため、すれ違ったりしても会釈こそするが、こういった状況にはならない。
だが、セリアーナは……。
「…………」
何とも思っていないようで、一瞥もせずに間を通っていく。
後ろからついて行っている俺の方が、気まずくなって周りに視線を彷徨わせてしまっているくらいだ。
気さくな領主と怖い領主夫人……って役割分担をしているが、それでもこの堂々とした振る舞いは……もうセリアーナの素の性格だよな。
そして、すれ違うたびに俺やエレナがもう頭を上げていいよと言っているんだが、微動だにしない。
訪問客だけじゃなくて、案内をしている文官たちですらだ。
セリアーナは全く気にしていないんだが……大分恐れられているな。
ここ最近セリアーナがこっちに来る機会がなかったからついつい忘れていたが、そう言えばこんなんだったな……。
まだ先には頭を下げている者たちがいるが、丁度周りにはいなくなったところで俺は「でも……」と呟くと、それが聞こえたのかセリアーナが前を向いたまま「どうしたの?」と訊ねてきた。
「うん……いや、堂々としてるなって思ってさ」
そう返すと、セリアーナは「堂々?」と首を傾げてこちらを見たが、すぐに思い当たったのか肩を竦めて前を向いた。
「こうするのが私の役割よ。お陰で、私の使いだと言えばお前もどこでも優先的に通れるでしょう?」
「セリア様も無理をしているわけではないし、君が気にする必要はないよ」
「まー……それはわかってるよ」
微妙に気まずい気持ちを押さえつつ、俺は二人にそう返した。
セラ・加護・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】
恩恵品・【浮き玉】+1【影の剣】+1【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】+1【赤の剣】【猿の腕】・0枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・0枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




