159
今日はいよいよルトルに出発だ。
「セラ、忘れ物は無いわね?」
部屋を見渡したセリアーナが俺に向かいそう言った。
この部屋に私物を置いていたのは本人を除けば俺くらいだからな。
「無いよ!」
ソファーも【隠れ家】にねじ込んだし、ばっちりだ!
それにしても、セリアーナはほとんど物を残していくようだ。
まぁ、実家だし王都の時とは違うのかもしれないが……。
「結構。行きましょう」
スタスタ出て行くセリアーナ。
王都から帰って来た時は少し感傷的になっていたが、これから出て行くって言うのに今日はそんな様子は見られない。
外を見ると、雲一つない晴天。
……傘を日傘として使う季節がやって来たな。
「あら」
階段に差し掛かり玄関ホールを見下ろすと、エレナやアレクそれに使用人達だけでなく親父さんやミネアさんにフローラ、更にルシアナまで待っている。
随分気合の入った見送り方だ。
「もう到着しているの?」
セリアーナはその事に触れず、馬車の用意が済んでいるかを聞いている。
「はい。護衛も含めて既に」
それを聞いてから親父さん達の方へと向かった。
妹のルシアナはフローラの背中に隠れている。
アイゼンもだったがやっぱり姉の事を苦手に思っているらしい。
と言うよりも俺……正確には【浮き玉】を見ているな。
やらんぞ。
「エレナさん、アレクシオさん、セラさん」
セリアーナとの会話を切り上げこちらに近づいてくるミネアさん。
「娘の事をお願いしますね」
「お任せください」
俺とアレクは頭を下げ、代表して答えるエレナ。
まぁ、家を出る娘の事が心配になるのはわかるさ。
ただ、一番危機察知能力が高いのもその娘さんなんだよなぁ……。
「次に会うのは来年だな。娘を頼むぞ」
同じような事を言ってくる親父さん。
夫婦だね……。
こちらも先程と同じように答える。
「3人とも、行くわよ」
名残惜しそうにしている親父さんをよそに、セリアーナは既に出て行こうとしている。
玄関のドアを開けさせ、アレク、エレナが出てからセリアーナと俺も出る。
馬車と護衛の騎士10騎にアレクが乗る馬の姿が見える。
馬車のドアが開けられたので俺から乗り込んだ。
今回は御者はアレクじゃ無いので【隠れ家】を使えない。
使用人は屋敷で働くものは連れて行かず、後日領内から募るらしい。
まぁ、宿に着いたら夜は【隠れ家】を使うし10日程度で着くし大丈夫かな?
◇
出発してから4日目。
前俺がこのルートを通った時は【隠れ家】の中だったから、季節が違うというのもあるかもしれないが、目に入る光景が新鮮に感じる。
事前に冒険者にルート上の魔物の掃討を依頼していたようで、道中襲われる事も無く順調に進んでいる。
「む!」
今日の目的地、リーゼルと落ち合う予定のレフの街だ。
向こうの方が先に出たそうだし、もう着いているのかな?
「街がもう見えてきますよー」
【隠れ家】に入れるならともかく、馬車に乗るだけってのはどうにも窮屈で、街道沿いなら【浮き玉】の使用許可が出ている。
今も上を漂っていたのだが、1キロほど先に街壁が見えてきた。
「わかった。見張りを刺激したくない。セラは馬車に入ってくれ」
「はいよー」
脱走した時は気付かなかったが、ルトルは最前線と言う事もあり街そのものには粗があっても街壁は頑丈に出来ていたことが分かった。
あそこの壁は領都に匹敵する。
それに対して、他の街の壁は何というか……貧相だ。
領都より西はそんな事無かったが、東側には手が回っていないんだろうな。
このレフの街から東を新領地に割譲する計画らしいし、これからは発展していくのかもしれないな。
「もうすぐ着くよ……何?」
日傘をたたみ、馬車のドアをノックしてから中に入ると、セリアーナが睨んできた。
「いいえ。外を楽しんだようね?」
あぁ……中にずっと籠りっぱなしだからストレス溜まってたのかな?
「外はねー……暑かったよ。この傘ついに普通に使ってしまったもん」
背中に背負った傘を差しながら答える。
よくよく考えると、雨の日も暑い日も出かけようと思わないからな。
「暑いのは嫌ね……。リーゼルからの報告も聞くし、今日はあの街までよね?」
「はい。殿下は昼食後に出発されますがお嬢様はそのまま滞在し、明日早朝に出発となります」
「そう。リーゼルも大変ね。セラ後で【祈り】をかけてあげて頂戴」
「はいよ」
馬車の中は空調が効いているが、ずっと乗っていると疲れるからな。
ついでに【ミラの祝福】もやってあげよう。
気休めくらいにはなるかな?
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・8枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




