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「あら、お帰りなさい」
ミネアさんの部屋から戻って来ると、アレクがいなくなっていた。
「ただいまー。アレクはいないの?」
「冒険者ギルドから相談があるとかで、そちらに向かったわ。それで?フローラ様はどうだったの?」
相変わらず忙しいやっちゃ。
もうすぐ領都から離れるのに、色々仕事を引き受けているからな……。
それはそれとして。
「うん。満足してもらえたよ。時間に余裕が無かったからジグさんの時と同じようなやり方だったけどね。まだここにいる間に自分もまた頼みたいって奥様が言ってたから、もしかしたら話があるかもしれないね」
多分あれはまた依頼が来るな。
「それと報酬なんだけど、お金はもう貰ったんだよね。それ以外によく本を読むって話をしたんだけど、今後は王都の新作を手配するって。専用の馬車を用意して送るって言ってたよ」
「余ったスペースは好きな物を積んでいいのね。お母様らしい趣味ね……」
前世じゃあるまいし、俺の読むような本なんて年間10冊出るかどうか程度だと思う。
その為に馬車を1台わざわざ用意するなんて、無駄もいい所だ。
俺も聞いた時、普通に商隊とかの馬車に一緒にしてくれたら、と言ったけれどその時説明してくれた。
他家に嫁いだ娘への仕送りの様なもので、馬車の空きスペースに詰め込む手法が貴族の間で使われる事があるらしい。
王都の商業ギルドを経由する事で娘に送ったという証明にもなり、夫と仲が悪くなってもほぼ確実に手元に届く事になる。
とは言え……。
「馬車1台は大きすぎだよね」
「そもそも隣の領地なんだし、ここから直接送れば済む話よ。それをしないって事は、魔境の素材を確保して、それを王都圏へ運ばせたいのでしょうね」
フンッと少し不機嫌そうに言うセリアーナ。
「そうですね。オリアナ様とフローラ様も係わっているのでしょうね。お二人なら王都圏にも伝手がありますし、新領地でのお嬢様の活躍を喧伝出来ます」
セリアーナの言葉をエレナが継ぐ。
ま……まどろっこしい。
「君への依頼も報酬という事でこの事を伝える為でもあったんじゃないかな?」
「ほー……」
随分楽しげだったけれど……色々考えているんだな。
セリアーナの方を見ると机に肘をつき顎に手をやっている。
脚を組んだり肘をついたりと普段やらない仕草だ。
「照れているんだよ」
エレナがこそっと耳打ちしてきた。
ああいう子供っぽい仕草は何気に初めて見るな。
……ミネアさんの方が上手なのか。
◇
「階段降りるわよ」
彼女は背中に張り付く俺にそう言った。
「はーい」
俺を背負いながらも危なげなく階段を降り、1階へ。
そのまま奥にある休憩室に向かう。
「重くない?」
「軽い軽い。向こうに行ってもちゃんと食べなさいよ?」
「食べてるんだけどねー?」
一応背も伸びたりはしているがまだまだ軽い。
量が足りないんだろうか?
それはさておき、何故おんぶされているのかと言うと、使用人への【ミラの祝福】を使う為だ。
この領主の屋敷で働く使用人は、前後する時もあるが基本的に男性20人女性30人となっている。
それとは別に料理人や庭師、警備の兵などがいるが、現在も人数は変わっていない。
つまり、俺は30人分行う必要がある。
別に依頼を受けているわけでは無いが、これも義理ってもんだ。
とはいえ、流石に全員をじっくりやる時間はもう無く、先日のフローラの時から考えていた改良案の実験も兼ねて彼女達に試すことにした。
男は知らん。
その方法は、背中に張り付き胴体に足を回し、顔を手で触れておく事。
考えてみれば割と簡単な事だった。
1日5人のペースで行えば6日で終わるし、それ位ならその間の仕事は多少は融通をきかせてもいいとミネアさんから許可が出た。
今は2階への用が入り、向かったが施療中は使用人の控室の使用を認められている。
福利厚生の概念があるかはわからないが、そんな感じだろう。
「お!」
1時間経ったことを告げるタイマーが鳴った。
これで彼女の分は終わり。
残りは2人。
それで全員終わりだ!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・8枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




