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春の3月。
この国は春の3月半ばと秋の2月末に、所謂雨季の様なものが1週間から10日間ほどある。
普段はあまり雨が降らないが、それでもその時期はずっと雨が続くため、その前に街のいたるところで壁や屋根の補修作業を行うことになっている。
もちろんこの屋敷もだ。
通常の建築物なら職人ギルドから1組が派遣され、彼らによって数日で終えるが、流石に大きいだけあってそれでは間に合わず、かといって半端な数では時間だけかかってしまうので、まずはこの領主の館に全員を派遣して一気に終わらせることが慣例になっているらしい。
尤も去年はどちらの時期も王都に居たから、領都では初めてだ。
孤児院にいた頃は、年長者が雨漏りの修理とかをやっていたものだが、長年大して技術の無い子供達がやっていたから大分痛んでいた。
いつか焼き払ってやると考えていたが、ほっといてもそのうち潰れそうだよな……。
それはそれとしてだ、職人達の食事等は、依頼主側が用意する。
領主の館で、そこで働く使用人達に給仕されるという事もあり、中々評判はいいそうだ。
ただ、人数が多ければ作業する範囲も広く、壁程度なら下に降りる事も手間では無いが、屋根の上だとそうは行かない。
照明器具も無く、日が暮れる前に撤収する為時間は大事だ。
その為屋根の上でそのまま受け取る事が多かったそうだが、そこまで行くことは慣れていない女性では難しく、主に男性が運んでいた。
「セラ、これ頼むよ」
窓の外で浮きながらぼーっとしていると、中から声を掛けられた。
見ると既に料理を詰めたバスケットが複数用意されている。
「はいよー」
そこで、俺だ。
食事の配膳手伝い。
メイドさんのイメージっぽい仕事である。
普段からこういった事は手伝っているが、珍しく今日はセリアーナ直々に命令を下された。
「お待たせー」
「おーう、有難うよ嬢ちゃん」
相も変わらず、高所作業は大活躍している。
まずは、パンに野菜と何かの肉をソテーしたものを挟んだ、ホットドッグの様な物だ。
外でも食べられるものだが、やはり材料や料理人の腕が違うからか、味は上らしい。
「あとスープあるから、落ちないようにオレが見ておくから引っ張り上げてね。」
「おう」
そう伝え、資材を持ち上げる為の両端にロープを結んだ板をすぐ下の廊下の窓まで降ろした。
「お願いしまーす」
「ああ。落ちないよう見ていてくれよ?」
廊下で待機していた使用人達に鍋を板に乗せるよう促した。
10数人分のスープが入った、大鍋。
残念ながら俺じゃ持ち上げられず、こんな形になっている。
まぁ、持ち上げられはしないが、バランスが崩れないよう支える程度なら問題無いからな。
鍋は無事引き上げられ、スープも皆に行きわたった。
後は下げられる物から下げていって、今日の俺の仕事は終わりだ。
◇
窓は開いているが、コンコンと一応ノックをしてからセリアーナの部屋に入った。
「ただいまー」
いい仕事して来たぜ。
「ご苦労だったわね。セラ」
「うん。まー、楽な仕事だったよ」
わざわざ労ってもらって申し訳ないが、本当に物を運んだだけだからな。
まぁ、【浮き玉】も俺の力と考えれば、それなりの働きだとは思うけれど。
「ルトルには彼等の中からも移ってもらう者達がいるし、顔を売っておくのは悪くないわ」
各街には様々なギルドが存在するが、それらを束ねるのが領都のギルド支部だ。
本部こそ王都にあるが、あくまで各支部の情報を取りまとめているだけであって、上下関係は存在しない。
本部の職員も各支部から派遣されるものが半数近くになる。
支部もそれに近い構造だ。
各街から領都に集まる。
ただ、違うのは技術指導として、派遣されることか?
ルトルは新領地に組み込まれるが、何でもかんでも1から集める事は出来ないし、一時的にここの職人が行くことになるんだろう。
今日の手伝いはそれを踏まえてだったのか。
抜け目ないな……!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・8枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・35枚
エレナ・【】・【緑の牙】・3枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




