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「……疲れたね」
屋敷の会議室から出てしばし進んだ所で、窓から暗くなった外が目に入り、思わず口から零れてしまった。
始まったのは昼過ぎなのに、こんな時間まで終わらなかった。
「本当ね……」
セリアーナの声にも疲労がにじんでいる。
何というか……不毛な会議だった。
領地の首脳陣が集まったこともあり、途中何度も脱線した。
各代官が去年の収穫高を報告し始めた時には気が遠くなったよ……。
それはさておき、議題はつい先日ゼルキスのダンジョンで2人の死者が出た件についてだ。
彼らがいた場所は中層に繋がるルートから離れた場所で、偶々俺が近くにいて尚且つ、壁を無視して人や魔物の姿を見る事が出来たから最悪の事態にはならなかったが、場合によってはゼルキスのダンジョンに新たに4人分死者が追加されていたかも知れなかった。
その場合、ダンジョンの年間維持費が40枚、魔人が新たに4体増える事態になり、ゼルキスや、新領地の政策にも影響が出た可能性がある。
死者が出たのはなんでも10数年ぶりの事で、事件性は無いのか?
冒険者ギルドの審査は適切なのか?
果ては、他国の工作では無いか?
と上を下への大騒ぎだ。
連日大掛かりな調査を続け生き残った2人からも聞き取りをし、その最終報告と対策の会議が今日行われた。
当然救助側ではあるものの当事者で、尚且つ領主側の人間である俺と、ついでに主であり近く新領地の領主夫人となるセリアーナも呼ばれた。
まず結論としては、ただの不幸な事故だ。
ダンジョンに慣れていない、半端に外での戦闘経験のある冒険者が外と同じ感覚で狩りをしていた事で起きた事故。
これ自体はよくある事らしい。
ただ、通常だとゴブリンやコボルトといった、浅瀬や上層手前の失敗しても致命的な事態にならない相手でその違いを学ぶものだが、今回は時期が悪かった。
そこそこ腕に覚えのある冒険者達が、新領地開拓の参加を前に多数ダンジョンを利用していた。
それが悪かった。
なまじそこそこ戦える者達が勝手に連携を取って、冒険者パーティーと言うより戦場での傭兵の様な動きをしていた。
ところが、開拓に参加するべく冒険者達がルトルに移動しダンジョン内の冒険者の数が減って、連携を取る事が出来なくなっている事に気付かないまま上層を突き進み、オークとの戦闘に突入。
当初は順調に戦いを進めていたが、第2陣に急襲され一気に崩壊した。
ダンジョンに慣れていない冒険者と新領地の開拓という外的要因が組み合わさった結果に起きた事故。
そうなった。
それよりも救助と死体の回収のスムーズな連携の方を評価されていた。
自分達の狩りを中断してまで救援に駆け付け、そして出口まで同行し、調査にも全員協力した。
報奨金が払われるという事もあるが、冒険者にダンジョンでのルールが周知されている証拠だ。
それらを踏まえて、ゼルキスの冒険者ギルドはこれまで通りで良いとなった。
俺もそれでいいとは思うけれど……何だったんだこの時間……。
◇
「お疲れ様です。お嬢様」
部屋に着くと会議には参加せず、中で待っていたエレナが出迎えてくれた。
「無駄な時間だったわ……」
セリアーナがため息をつきながら手をこちらに伸ばし……。
「っ痛い⁉」
頬を引っ張って来る。
肉が付いていないからあまり俺の頬は伸びないんだよな……。
「お前途中で寝ていたでしょう……」
「うぐぐ……」
脱線して領内の収穫物の話になった辺りから記憶が怪しい……。
気付いたら机に突っ伏していたことが何度かあった。
「まあ、私も席を立ちたくなったし、許してあげるけれど……」
席に着き大きく息を吐いている。
ここまで疲れている姿を見るのは初めてかもしれない。
親父さんを含めて、領都近郊のお偉いさんが勢揃いだったからな……。
「私の領地ではこういう事は起きないようにしないといけないわね……」
よっぽど堪えたみたいだな。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・4枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・32枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




