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「…………」
部屋を支配する重い沈黙。
呼び出され、それに応じたにも拘らず、その呼び出した主がこの有様だ。
「あの……?」
相対するのはゼルキス領主にして、現ミュラー家当主エリアスさん。
まぁ、親父さんだ。
夕食を済ませたセリアーナから、彼が俺を呼んでいると言われ、やって来たのだが、部屋に通されはしたものの、深刻な顔をしずっと黙り込んだままで一言も発さない。
親父さんに呼び出されるような理由が思いつかないんだが、一体何なんだろうか?
「…………」
いや本当に何なんだろうか?
「旦那様、お嬢様が仰っていたように、あまり時間をかけるとセラは寝てしまいますよ?」
後ろに控えていた家令のリックが、困り顔の俺を見かねたのか、親父さんを促している。
いや……いくら何でも話している最中に寝たりはしないよ?
「……うむ」
ようやく口を開いたか。
「セラよ、君の加護の事は聞いている。また効果も妻に見せてもらった」
ベッドでかな?
「今日……ジグハルト殿を見た。彼にも施したのだろう?」
「はい。もうすぐルトルに行くからその前に、と」
何だろう?
親父さんもやって欲しいんだろうか?
そりゃ別に構わないけれど、それにしたって、ここまで深刻そうにするほどじゃ無いよな?
「そうだな。人前に立つにも人を導くにも容姿は重要だ」
そう言うと頭に手をやり……。
「はぁ……あっ⁉」
俺の目の前でカツラを外した。
まだ40前なのに、中々の逝きっぷりだ。
じーさんがフサフサだったから想定していなかったが……うん。
「若い頃から随分頭を悩ませてきたからな……」
腕を組み遠い目をしてしみじみ言う親父さん。
「あぁ……」
大暴れする脳筋のじーさんの代わりに若い頃からずっと周りの領地とのやり取りを一手に引き受けていたそうだしストレスもあるだろう。
そもそも今でも貴族家当主や領主として考えたら十分若い方だ。
家格は高いが色々気を遣うんだろう。
後ろでリックがお労しや……って顔をしている。
「治療師等にもそれとなく聞いた事があるが、髪という物はどうにもならないそうだ。錬金術師達の間でも成果は上がっていないと聞く。だが、今日晩餐でジグハルト殿を見た。……あれは君だな?」
ジグハルトの施療の効果は中々好評だったようで、この屋敷ではまだ披露していなかった【ミラの祝福】のいいデモンストレーションになった。
だが、皆が顔に注目している時に親父さんはその少し上の額を見ていたらしい。
目ざとい事で。
「そうです。でも、髪の毛生やすのは今日やったのが初めてですよ?」
ごっそり逝っても知らないぞ?
「ふむ……逆に頭髪が抜け落ちた事はあるのかな?」
「それは無いですけど……」
年配ではあるが女性がほとんどだったし、偶に来た男性も、腹回りが中心だったからな……。
ミラ様的に、髪の毛はムダ毛じゃ無いんだろう。
今まで生やした事は無かったが、確かに抜けた事も無い。
「なら悪くはなるまい。是非とも頼みたい。むろん報酬は用意する」
「お嬢様にこの事は?」
どうも頭の事も知られていないような気がするんだけれど、どうなんだろう?
「話していない。普段からそれ程近づいて話すことは無いからな。恐らく気付いていないはずだ」
「なるほど……わかりました。やりましょう。髪の毛だけでいいんですよね?」
「おおっ‼ありがたい……!そうだな、頭髪だけで十分だ」
「んじゃ、今からやりましょう。リックさんお嬢様に適当に言って来てよ」
頭だけなら注意もいらないし、気力体力減っていても大丈夫だ。
「そうだな、痛めた腰の治療を頼んだとでも言っておいてくれ」
「わかりました」
そう言うなりすぐに部屋から出て行った。
セリアーナのスキルで証明済みとは言え、俺と2人だけにしていいんだろうか?
……まぁいいか。
「腰痛めてるんですか?」
「少しだがな。座り仕事が多いからどうしてもな……」
ついでだし、もう少し恩を売っておこうかな?
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・31枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




