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「左200に5」
ヘビのヌイグルミを枕代わりにし、座席で横になっているセリアーナが左前を指差しながら小声で呟いた。
「アレク、左の200先に5です」
「おう。左の200先に5だ!」
セリアーナからエレナへ。
エレナからアレクへ。
【猛き角笛】を発動したアレクから全体へと、伝言ゲームの要領で伝わっていく。
全体の動きが止まり、さらに前の馬車から、身を乗り出したジグハルトが光りながら一発ドカンとぶっ放した。
木々をへし折りながら指定された位置に着弾し、その着弾点に即座にフィオーラの魔法が連続で撃ち込まれる。
「0よ」
「0です」
「片付いた!」
またも伝言ゲームで、敵の全滅を伝える。
それを受けて、前方に広がっていた護衛達が纏まり、全体が進み始める。
「おー……」
思わず感嘆の声が漏れる。
ジグハルトとフィオーラ。
そして、護衛達。
一糸乱れぬ、とでも言うんだろうか?
山に入ってから何度か戦闘を行ったが、大体今の様にジグハルトとフィオーラのコンボで倒している。生き延びるのもいるが、大半は逃走している為わざわざ追わず放置している。
稀に突破してくるのもいるが、先頭に陣取った隊長達が確実に仕留め、馬車に近づく事すらできていない。
訓練をしていないはずなのに、よくあんなアバウトな指示でこうまで上手く動けるな。
出来れば小窓から覗くのではなく、上から見たいのだがそれは止められた。
今セリアーナがスキルを発動しているが、範囲は半径300メートルにしている。
もしその範囲の外から狙えるような者の攻撃だったら、安易に姿を見せるのは危険だと言われたからだ。
……否定はできないね。
むしろ掠っただけでも死にかねない。
貧弱な我が身が憎いぜ……。
セリアーナの方を向くと、エレナが額に浮いた汗を拭いている。
スキルの範囲300メートル程度でここまで消耗するのは珍しい。
街中ではこの位なら余裕があったのに、外だとまた違うんだろうか?
「右100に8」
今度は横を指している。
「右横100に8です」
そしてまた伝言ゲームが始まった。
外も気になるが、残念だが俺は中で大人しくしておこう。
◇
「どうする……?」
斜面から見下ろすと、距離はまだあるが山間を通る街道を進む対象が見えてきた。
外から中の様子は覗えないが、最優先のターゲットであるセリアーナは、アレクシオが御者を務めている2番目の馬車だろうとあたりは付けられる。
「いや……引こう」
「やらないのか?」
国を挙げての新領地開拓。
辺境での国の影響力が高まり、逆に教会の影響力が落ちることになる。
それによって辺境の聖貨回収地点を潰されるのはまずい。
そう考えた西部のいくつかの国が組んで派遣した襲撃者がこの男達だ。
「ああ。「閃光」と「魔導姫」が配下に着いたって噂があったが、本当らしい」
「落石のポイントまで待たずにか?」
「お前達も見ただろう?潜んでいる魔物が随分手前から撃たれている。あの距離から当てるのも凄いが、何より察知できる事が只事じゃない」
「……加護か。セリアーナか?」
「だろうな」
現在の最前線である、ゼルキス領。
そこには当然西部の息のかかった者達が活動しているが、領都に入り込んでしまえばすぐに捕捉される。活動していようといまいと関係無しにだ。
結果、碌に成果を得られず領都を離れることになる。
セリアーナと弟のアイゼンのどちらかが、索敵できるような何らかの加護を持っていると言われているが、恐らくセリアーナだろう。
範囲がどれほどかはわからないが、捕捉されたらあの魔導士達からは逃げられないかもしれない。
「まだ機会はある。ここは消耗を無くす事が第一だ。離脱して他のルートを張っている連中と合流し、次の機会を待とう」
皆その言葉に頷く。
「ルートはどうする?出来るだけ速やかに離れるべきだろうが……」
「北に抜けよう。そこから回り込んでゼルキス入りだ。それならあいつらが先行するだろうし、出くわすことは無い」
「わかった。行こう」
そう言い、男達は移動を開始した。
◇
「あら残念」
「どしたの?」
横になったままのセリアーナの呟きが聞こえた。
「気にしなくていいわ」
「……そう?」
訊ねるが答える気は無いようだ。
ちょっと気になるが……まぁいいか。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・29枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




