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明日、いよいよ王都を発つ。
じーさんやオリアナさん。
屋敷の使用人達ともそれなりに親しくはしていたつもりだし、思えばもう1年近くこの屋敷で暮らしていたわけだ。
多少は名残惜しく思う。
前世だと国内なら簡単に移動できるが、この世界だとそうそう簡単にはいかない。
……俺だけなら簡単かもしれないが、1人で移動するわけにもいかないしな。
「貴方達も、準備は出来ているわね?」
中身が空になり、すっかり寂しくなった棚を眺めながらセリアーナが言う。
セリアーナの部屋でいつもの報告会を行っているのだが、今日はジグハルトとフィオーラも参加している。
出発は朝だから、今日は屋敷に泊まるのだ。
「ええ。セラも連れて挨拶回りは終えています」
「大分引き留められたね!」
アレクと一緒に冒険者ギルドや農場に各種商店等、よく利用していた場所に挨拶に行ったのだが……あちこちで、まだいなさいよと引き留められた。
「お前を通すと屋敷に話が広まるからな」
我ながら良い広報役だったと思う。
色々おまけしてもらっていたが、元は取れたはずだ。
「ジグハルトとフィオーラも大丈夫なようね。ではエレナ、明日からの予定を」
「はい」
エレナもすっかり秘書役が板についている。
このままそっちに専念すんだろうか?
「明日朝9時に騎士団より王家の武装馬車が2台届きます。お嬢様とセラ、私が1台に乗り、アレクが御者を務めます。もう1台には伯爵ご夫妻が。ジグハルト殿とフィオーラ殿はそちらをお願いします。荷物の搬入後10時に貴族街入口でリーゼル殿下の馬車並びに護衛の騎士隊と合流し出発。休憩を挟みますが、明日中にエルスト領都に到着予定です。その翌日……」
エレナの説明が続いている。
俺は地理が頭に入っていなかったから、昨夜地図を見ながら説明を受けたが、中々の強行軍だと思う。
王都‐ゼルキス間は、通常だと2ヶ月弱かかる。
入学、卒業で多くの貴族が国中を移動するこの時期、各領地で騎士が巡回し治安維持に努めているが、それでもセリアーナや、伯爵夫妻にリーゼルと重要人物が一度に揃っている為、あまり時間をかけずに一気に行くらしい。
俺達が去年王都にやって来た時は、【隠れ家】に荷物を詰め込んだ身軽な状態でも1ヵ月近くかかったが、馬車を4台に分ける事で1台当たりの負担を減らし、同じく1ヵ月ほどでの帰還を目指すそうだ。
朝から晩までぶっ通しで移動できるのなら1週間程度で着くんだろうが、万全を期して14~15時には宿泊先に辿り着くようなスケジュールを組まれている。
大分短く感じるが、16時頃から日が暮れ、17時には暗くなる季節だし仕方が無いんだろう。
「いいか?」
「どうぞ」
ポケーっとしている間もエレナの説明は続いていたのだが、ジグハルトがストップさせた。
「オルガノアからユークトに入るのか?」
「はい」
「あそこは確か領境に山が連なっていたはずだ。そこを抜けるのは危険じゃないか?」
オルガノア男爵領とユークト子爵領の間には今ジグハルトが言ったように山が連なっている。
大昔どこぞの怪獣が大暴れしたせいで、マジで王都より西側には山が無いのだが、オルガノアを越えた辺りから山が現れる。
平地より、獣はもちろん魔物も多く生息し、また、賊の拠点も存在する。
騎士の巡回も、山へ踏み込むどころかむしろそちらに追いやるように行っている為、時期を問わず危険が多い。
街道こそ通ってはいるが、大分大回りになるものの山を迂回するようなルートを取ることが一般的だ。
俺達も王都に来た時はその迂回ルートを選択した。
護衛に騎士が付くとは言え、時間は短縮できるが敢えてそこに突っ込まなくても、とは思うよな。
「敵は私が見つけるから問題無いわ。その時は指示を出すから貴方達が始末しなさい」
「未来の公爵様が魔物や賊如きを恐れては駄目って事ね。【竜の肺】は私が使わせてもらうわよ?」
フィオーラは理解しているらしい。
まぁ、開拓ってのは賊はともかく魔物を蹴散らすことも多いわけだしね。
むしろ箔が付くらしい。
「少しなら焼いてもいいそうよ。許可は取っているわ」
「あら素敵」
雪が積もっているだろうし、そこまで派手な事にはならないだろうけど、楽しそうに笑っているフィオーラがちょっと怖い。
本当は何も起こらない方がいいんだよ?
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・29枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】【猛き角笛】・5枚




