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「ふっ!」
息を一つ強く吐き、天井に潜むコウモリの群れの間を縫うように通り抜ける。
もちろん【影の剣】を発動している。
全滅だ。
「んー……ん。よしよし。汚れてないな」
地上近くまで降り、ケープを脱ぎ汚れを確認するが、返り血は付いていない。
腕を振り回しても全く邪魔にならないし、2組と戦闘を行ったが、コウモリはこの倒し方で正解だ。
これで浅瀬の魔物はあらかた網羅した。
先日少し早いが誕生日プレゼントとしてセリアーナから貰った、背中に大きくミュラー家の紋章が入った赤いケープ。
それを着ていたら大丈夫だろうと言われたので、セリアーナについて行くのをやめ、ダンジョンに向かうことにしたのだが……虫除けというか、冒険者避けというか……効果は大きかった。
そもそもアレクに声をかける意気地が無いから俺に来ていたわけだし、別に俺の権限が増えたとかそんなことは無いのだが、やはり紋章が胸元に小さくあるのより、これ見よがしに目立つ真っ赤なケープの背中に入っていると、インパクトがあるのだろう。
お陰様で元通りの気楽な生活に戻れた。
貴族学院はね……お行儀良くする必要があってやっぱり肩が凝る。
城の敷地内だから【浮き玉】も使えないし、歩きで移動するのは荷が重い。
やはりこちらのガサツな生活の方が合っているって事だな。
「おっと、終わった?」
魔物の核の処理を任せていたアカメが袖に潜り込んできた。
死体も全部消えている。
「よしっ。次はイノシシかな」
◇
「ふぅ……」
イノシシの群れ4頭の討伐を終えた。
もちろん汚れも傷も無しだ。
「あら……お代わり?」
死体の処理をしようとしたところ、離れた所にいたイノシシの群れがこちらに向かって来ている事に気づいた。
ペースが少し速い気がするが、この時間帯はダンジョンも人が少ないし、こんな事もあるんだろう。
意識を死体から向かってくるイノシシの群れに改めて切り替える。
【妖精の瞳】も発動してみるが、どれも同じ程度の強さで、特別なのはいない様だ。
数は6頭と少し多いが、これなら余裕だな。
待ち伏せてもいいが、まだ先程の分の死体が転がっているし、ここは俺から攻めよう。
死体は残したままになるが……すぐ終わるし大丈夫か。
他の階層もそうなのかはわからないが、この階層の魔物は人間がいる方向はわかっても、高さまでは判別できない様で、上からなら簡単に近づけるし不意もつける。
これで行こう。
方針を決め【浮き玉】の高度を天井近くまで上げ、起伏の陰に身を隠す。
再度周囲を見回し、魔物が他にいないかも確認。
魔物も、ついでに冒険者もいないし、これなら遠慮なくやれるな。
そんなことを考えていると、先頭の1頭が見えてきた。
少し遅れて2頭目3頭目と続いているが、群れ全体がばらけている。
これなら先頭からじゃなく、最後尾から狙った方が良さそうだ。
「ふっ!」
まずは1頭目。
他のイノシシが眼下を通り過ぎていく中、最後尾を狙い急降下。
そして、首を刎ねる。
それに気づき足を止め振り返ろうとした2頭目、3頭目は、間をプロペラの様に回転しながら通り抜け、これまた首を刎ねた。
4頭目は、外側の少し離れた位置にいるから無視!
「ふっ!たぁ!」
5頭目は完全に向き直りこちらに向かって来ていたので、【緋蜂の針】を発動し、頭部を蹴り体勢を崩させてから首を刎ね、向き直りこそしても足を止めていた6頭目は、一気に接近し核を貫いた。
出来ればこいつも首を刎ねる程度にしておきたかったが、もう1頭後方に残っているし仕方が無い。
さぁ、最後の1頭、カモ……ん?
「あれ?どこいった?」
先頭を走っていたイノシシを倒したところで、外側にいたからパスしていた最後の1頭に備えようと上昇しながら振り向いたのだが、いない。
10数秒で姿が見えなくなるほど離れられないだろうし……どこだ?
辺りをキョロキョロと探していると、一つ気付いたことが。
「アカメ君?君いつの間に出ていたんだい……?」
スカートの裾から体を伸ばしているアカメ。
呼びかけに反応し振り返ったが、ほんのり目が光っている。
死体の核を齧った時に見る光だ。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・16枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】・4枚




