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「ありがとうございます」
「いえいえ」
馬車から降りるのに手を貸してくれた御者さんに礼を言う。
一応タラップが付いているのだが、それでも俺には車高が高過ぎる。
もう一段付けて欲しいが、普段は馬車に乗る時も【浮き玉】を出しているからな……。
「お待たせ」
それは後で考えるとして、門が開けっ放しだし、セリアーナの帰宅を察した屋敷の人間が玄関前に出てきている。
さっさと中に入ろう。
「ええ。行くわよ」
警備の兵に見守られながら門を通り、そして玄関から屋敷の中に入る。
いつもは裏口や窓から出入りしていたので、最初の数日は落ち着かなかったが流石に慣れたな。
「お帰りなさいませ。セリアーナお嬢様」
「ええ。何か報告は?」
「はい。お茶会の誘いが2件と、モナド商会から荷物が届いております。そちらはお部屋に運んでおります」
「そう。昼食をとるから、いつも通り部屋に運んで頂戴」
「はい。かしこまりました」
指示を出すだけ出すと、セリアーナは部屋に向かった。
その後を俺達も追う。
挨拶ラッシュがようやく終わったと思ったら、今度はお誘いが山の様に来ている。
学院が昼までになっている分、それを見込んで昼食の誘いも多いし、じーさん達がほとんど断っているとはいえ、まだまだ大人気だ。
「では、私はここで」
「ええ。ご苦労様」
エイラさんは部屋の前で警備につき、俺達はセリアーナの部屋に入る。
「いいよ」
部屋に入るとさらに奥のドアから寝室に入り、【隠れ家】を発動しセリアーナと中に入る。
「使わせてもらうわよ」
そう言い、洗面所に向かい手を洗う。
そしてエレナと交替し、最後に俺も手を洗い軽く片付けてから、【隠れ家】に置いていた【浮き玉】に乗って部屋に戻る。
エイラさんが、部屋の前にいるからあまり長居は出来ないが、これ位は出来る。
居心地は【隠れ家】の方が良いんだが、セリアーナの警備は俺とエレナが部屋の中にいる事が前提になっているので、少々窮屈だが我慢するしかない。
寝室から出ると丁度昼食が運ばれて来ていた。
ギリギリセーフだ。
仕事が早過ぎるな。
この屋敷の人間は!
◇
昼食はサクッと済ませた。
この国の貴族は間食をする事が多いからか、客を招く時は別だが、昼は軽めだ。
今日はサンドイッチだった。
もっともこの世界にかの伯爵は居ない様なので、そう呼ばれずにただのパンと呼ばれている。
手軽に食べられるからと、身分を問わず人気らしい。
もっとも、ナイフとフォークを使う辺りは平民とは違うが……。
「セラ、こっちに来なさい」
「何?」
食事中は部屋の中に控えていたメイドさん達が食器を片付けに下がり、部屋の中が3人になったところで、セリアーナに呼ばれた。
机の上にあった箱から何か赤い布の様な物を取り出している。
「今日届いたの。少し早いけれど構わないわね?」
「うん?」
「君の誕生日プレゼントだよ」
「⁉」
なにが構わないのかわからず首を傾げていたが、そういえばもうすぐ誕生日かっ!
長く赤い布でパッと見、旗のようだが、流石にそれは無いだろうけど。
「ぉぉぉ……」
受け取り広げてみると、背中の真ん中に大きく紋章が刺繍されている。
真ん中に盾があり、その中に大木とその下に斧と剣が交差している。
更に片側に騎士団所持を意味する馬が、反対にはダンジョンを所持する意味の悪魔。
ミュラー家の紋章だ。
「うちの騎士のマントと同じ素材で作ったケープよ。コートにするか迷ったのだけれど、お前の戦い方だとこの方が良いそうね」
試しに着てみるが、お腹の辺りまで丈があり、ボタンは無いが胸元で結ぶように出来ている。
腕をグルグルと回してみるが、邪魔にもならない。
厚みがあったり重たかったりするわけでも無いが、保温性も良さそうだし……お高い気配だ。
「今はミュラー家の紋章だけれど、お前が大きくなる頃にはまた新しい紋章で作ってあげるわ」
随分気の長い約束をしてくれるじゃないか……。
「ありがとー!」
そりゃしっかり仕えないといかんね!
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・16枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】・4枚




